イランの国家安全保障評議会はこのほど、20日に予定していた、「ヒジャブと貞操法」の施行を一時停止した。ヒジャブの着用に従わない者などを罰するこの法律は、物議を醸していた。
イランのマスード・ペゼシュキアン大統領は、この法律の内容は「あいまいで、改革が必要」だとし、この措置を改めて評価する意向を示した。
この新法は、女性や少女が頭髪や前腕、膝から下を露出した場合に、より厳格な処罰を適用するというもので、権利活動家たちから激しい批判を受けていた。
女性と少女に対する厳格な服装規定は、イスラム共和国であるイランの支配者たちによって数十年にわたり、国家安全保障上の優先事項として扱われてきた。こうした規定をめぐっては、過去にも抗議が起きている。
新法は、違反行為を繰り返したり、規定をあざけったりした者に対して、従来よりも重い罰金と禁錮刑を科すというもので、最大15年の禁錮刑に処される可能性がある。また、企業側には、規則に違反した者を報告することが義務付けられる。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、イラン当局が「すでに息苦しい弾圧体制を、さらに強化しようとしている」と指摘している。
7月に行われたイラン大統領選では、当時大統領候補だったペゼシュキアン氏が、ヒジャブ問題をめぐるイラン女性の扱いを公然と批判した。
女性の私生活には干渉しないと約束したペゼシュキアン氏の姿勢は、多くのイラン人、特に、政府の厳格な統制に不満を持つ若者世代の共感を呼んだ。
女性・家族問題担当副大統領を務めたマアスーメ・エブテカール氏も、「新法は、イラン国民の半数を起訴するようなものだ」と批判していた。
先週には、イランの人気女性歌手パラストゥ・アフマディ氏がヒジャブを着用せずに、無観客の場所でコンサートを行い、その様子をユーチューブで配信。アフマディ氏は逮捕され、ヒジャブをめぐる論争はさらに激しさを増した。
このコンサートの様子はすぐに拡散され、アフマディ氏とバンドメンバーが逮捕されたことへの反発が広まった。世論のこうした声を受け、当局は逮捕の翌日にアフマディ氏らを釈放した。
2022年にテヘランで、マサ・アミニさん(22)が頭髪を覆うスカーフを適切に着用していなかったとして道徳警察に逮捕され、数日後に亡くなった事件をきっかけに、全国的な抗議行動が起きた。以来、ヒジャブをめぐる緊張は高まったままだ。
この2年間、多くの若いイラン人女性が、公の場で反抗的にヒジャブを脱ぎ、政府の権威に対抗してきた。
先週には、30人以上のイランの権利活動家や作家、ジャーナリストが、新法は「非合法で法的強制力がない」ものだと公然と非難し、ペゼシュキアン氏に大統領選で掲げた公約を守るよう求めた。
イランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師に近い強硬派からの圧力にもかかわらず、同国の多くの若者は恐れることなく、政権による制限に立ち向かっているようだ。
ペゼシュキアン氏の支持者たちは、新法を施行しても、若い女性たちを思いとどまらせることはできず、事態を悪化させる可能性さえあると考えている。
しかし、新法を支持する人々は、施行をためらっている国家安全保障会議を批判し、ペゼシュキアン氏に法案に署名するよう要求している。
施行を一時停止するという決定は、イラン政府が2年前のような大規模な抗議行動の再来を恐れていることを示唆している。