アメリカのジョー・バイデン大統領は23日、連邦法違反で死刑が確定した死刑囚40人のうち37人について、仮釈放なしの終身刑に減刑した。
減刑の対象とされなかった3人には、2013年のボストンマラソン爆発事件の実行犯や、2018年にシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で礼拝者を殺害した死刑囚が含まれる。
バイデン大統領は声明で、「連邦レベルでの死刑執行をやめなければならないと、これまで以上に確信している」と述べた。今回の措置は、州当局から死刑判決を受けた2000人以上の死刑囚には適用されない。
バイデン大統領は来年1月に任期満了となり、第2次ドナルド・トランプ政権が発足する。トランプ氏は1期目に、連邦レベルの死刑執行を再開した。
誰が減刑されたのか
減刑された37人の中には、囚人仲間を殺害した罪で有罪となった9人や、銀行強盗の際に人を殺害した罪で有罪となった4人、刑務官を殺害した1人などが含まれる。
「私は間違いなく、これらの殺人犯を非難する。彼らの卑劣な行為の犠牲になった人々のことを悲しみ、想像を絶する取り返しのつかない喪失に直面するすべての家族の痛みを感じている」と、バイデン氏は付け加えた。
警官を巻き込んだ麻薬組織を運営し、女性1人の殺害を仕組んだ、ニューオーリンズ警察の元警官レン・デイヴィス死刑囚も減刑が認められた。
27年間収監されているビリー・アレン死刑囚は、バイデン氏による減刑措置を受けて「すごくほっと」したと述べた。アレン死刑囚は1997年、ミズーリ州の銀行に強盗に入った。その際に警備員1人を殺害した罪で有罪判決を受けた。同死刑囚は一貫して無罪を主張していた。
インディアナ州の刑務所からBBCラジオ4の番組「ザ・ワールド・トゥナイト」に出演したアレン死刑囚は、減刑されることを知った死刑囚たちは「自分たちがこれ以上死に直面しなくてすむことに興奮していた」と語った。
「毎日、死に直面するという重荷が取り除かれることに、すごくほっとしている」
今回の決定をめぐり、一部の被害者家族が憤っていることについて聞かれると、「死刑は正義だと言う人がいることは理解している。(中略)でも、ここにいる何人かは、この機会を使って、もっと良い行いをし、より良い人間になりたいと話していた。なので、その中で、いくらかの慰めを見いだせるかもしれない」と答えた。
被害者家族の反応
2017年にサウスカロライナ州で起きた銀行強盗事件で、射殺されたドナ・メジャーさんの娘ヘザー・ターナーさんは、殺人犯が死刑から減刑されたことに「傷つき」、「すごくいら立っている」と話した。
ターナーさんはBBCの「ザ・ワールド・トゥナイト」に対し、「被害者とその家族のことなどお構いなしに、この決定が出されたと感じている」と述べた。
「特に、クリスマスシーズンにこのような決定をするなんて、胸が張り裂ける思いだ」
「正義とは、正しいことをするということだけでなく、正当な結果を与えることでもある。殺人に対する結果は死だと、私は信じている」とターナーさんは述べた。そして、バイデン氏の決定は「政治的動機」によるものだと思うと付け加えた。
今回、減刑されなかったのは、2013年のボストンマラソン爆発事件の実行犯ジョハル・ツァルナエフ死刑囚と、2015年にサウスカロライナ州チャールストンの教会を訪れた黒人9人を射殺した、白人至上主義を公言するディラン・ルーフ死刑囚、2018年にピッツバーグのシナゴーグ「ツリー・オブ・ライフ」で起きた銃乱射事件で、ユダヤ教礼拝者11人を殺害したロバート・バウアーズ死刑囚の3人。
死刑に反対のバイデン氏、適用拡大示唆のトランプ氏
バイデン氏は死刑制度に反対してきた。大統領就任後は、司法省が連邦レベルでの死刑執行を一時停止した。
一方でトランプ氏は、第1次政権の発足から半年で13人の死刑執行を指示した。
トランプ前大統領が2020年7月に連邦レベルの死刑執行を再開するまで、2003年以降の死刑執行数はゼロだった。
トランプ氏は今年の大統領選で、人身売買や麻薬の密売人、米国民を殺害した移民にも、死刑を適用する意向を示した。
バイデン氏は声明で、「新政権が、私が停止した死刑執行を再開するのを、後ろに下がって見ている」ことなどできないと述べた。死刑制度をめぐるトランプ次期大統領の意向に言及したものとみられる。
アメリカの法律では、こうした恩赦の決定を、次の大統領が覆すことはできない。
バイデン氏の発表を受け、一部の共和党員からは批判の声が上がった。
共和党のトム・コットン上院議員(アーカンソー州)は、民主党は「政治的に都合のいい正義の党」だとソーシャルメディアに投稿した。
「またしても、民主党は被害者や社会秩序、良識よりも、堕落した犯罪者の味方をしている」
NPO団体「死刑情報センター」(DPIC)によると、今回の決定は、州裁判所で死刑判決を受けた約2250人の死刑囚への影響はない。バイデン政権下では、州レベルの死刑執行が70件以上行われた。
全米50州のうち23州では死刑が廃止されている。このほか、アリゾナ州、カリフォルニア州、オハイオ州、オレゴン州、ペンシルヴェニア州、テネシー州では死刑制度が一時停止されている。
来月に退任するバイデン氏は12日にも、非暴力犯罪で有罪判決を受けた米国民39人への恩赦と、1499人への減刑を発表した。
また、1日には、刑事裁判2件で有罪となり、量刑言い渡しが今月予定されていた次男ハンター氏(54)に恩赦を与えた。ハンター氏は6月、銃の購入や所持をめぐる3件の連邦法違反の事件で有罪評決を受けた。2023年には、脱税をめぐる重罪3件、軽微な罪6件の計9件の罪で起訴され、今年9月に罪を認めた。