2025年1月9日(木)

BBC News

2025年1月8日

ソーシャルメディア「X」のオーナーで米富豪のイーロン・マスク氏の内政干渉的な発言に対し、ヨーロッパの首脳たちが批判の声を強めている。

最も打撃を感じているのは、ドイツのオラフ・ショルツ首相かもしれない。

マスク氏はショルツ氏を「無能なばか」と呼び、辞任を求めている。今月9日にはXを使って、反移民を掲げるドイツの極右野党「ドイツのための選択肢(AfD)」のアリス・ヴァイデル共同党首と長時間、対話する予定だ。

ドイツは来月23日に連邦選挙を控えている。AfDは現在、世論調査で2位につけている。

「冷静でいなければならない」とショルツ氏は言う。「あおり行為にえさを与えてはいけない」。

イタリアのジョルジャ・メローニ首相など、マスク氏に好意を抱いている欧州首脳も一部いる。だがその他の指導者たちは、アメリカのドナルド・トランプ次期政権で大統領顧問という新たな役割を得るマスク氏が、自分たちの国の政治に踏み込んでくることに困惑している。

わずか24時間のうちに、欧州4カ国の政府がマスク氏の投稿に異議を唱えるという事態まで起きている。

「10年前に誰が信じただろう」

最初に不信感を示したのはフランスのエマニュエル・マクロン大統領だった。

マクロン氏は今月6日、「10年前に、世界最大級のソーシャルネットワークのオーナーが、新しい国際的な反動運動を支持し、ドイツなどの選挙に直接介入すると言われたなら、誰が信じただろう」と述べた。

ノルウェーのヨーナス=ガール・ストーレ首相も、「ソーシャルネットワークへのアクセスで大きな影響力をもち、ものすごい経済力を持つ人物が、他国の内政にこれほど直接的に関与していることを憂慮している」と発言。

さらに、スペインの政府報道官のピラール・アレグリア氏が、Xのようなデジタルプラットフォームには「絶対的な中立性と、何より、いかなる干渉もしない」ことが求められるとコメントした。

これに加え、イギリスのキア・スターマー首相も6日、「うそや偽情報をできるだけ広く拡散しようとする人たちは、被害者のことはどうでもよく、自分のことしか考えていない」と、マスク氏を名指しせずに発言した。これはマスク氏がこのところ、イギリスで過去に起きた集団的な児童性的搾取事件について、スターマー首相や閣僚を攻撃する投稿を多数していることを受けたものだった。

例外的な2国

欧州諸国で例外的なのがイタリアとハンガリーだ。

イタリアのメローニ首相は、マスク氏と親密な関係を築いており、同氏を「天才」、「並外れた革新者」などと呼んでいる。

ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、同国生まれのリベラルな慈善家ジョージ・ソロス氏を嫌っている点で、マスク氏と共通している。両者は先月、トランプ氏の私邸マール・ア・ラーゴで顔を合わせている。

いま最も注目されているのが、総選挙が間近に迫っているドイツの政治に対する、マスク氏の介入だ。

マスク氏はここ数週間、たびたびAfDへの支持を表明している。独日曜紙ヴェルト・アム・ゾンタークへの寄稿では、AfDをドイツの「最後の希望の火花」と呼び、かなりの物議を醸した。

マスク氏は当時、自らが最高経営責任者(CEO)を務める電気自動車(EV)テスラがドイツに資金を投資していることを理由に、この介入を正当化した。また、AfDのヴァイデル党首にはスリランカ出身の同性パートナーがいるとし、AfDを右翼で過激派と表現するのは「明らかに誤り」だと述べた。

AfDについては、ドイツの治安当局が「右翼過激派」または「過激派の疑いがある」と認定している。裁判所も、民主主義に反する目標を追求している団体との判断を示している。

ショルツ首相は冷静を装っているが、緑の党のロベルト・ハーベック党首は露骨に、「私たちの民主主義に手を出すな、マスク氏」と言った。

自由民主党(FDP)のクリスティアン・リントナー党首はマスク氏について、「ドイツに経済的損害を与え、政治的に孤立させる政党への投票を呼びかけることで」、アメリカの利益となるようドイツを弱体化させようとしているのかもしれないとした。

ビジネス利益の拡大も

マスク氏はドイツの政治について率直な意見を述べる一方、イタリアではビジネス上の利益を拡大している。

報道によると、マスク氏の宇宙企業スペースXとイタリアは16億ドル(約2530億円)規模の契約について交渉中だという。計画では、同社のスターリンクの衛星がイタリア政府に、暗号化されたインターネットと通信サービスを提供すると言われている。

まだ契約には至ってないとみられ、イタリア政府も契約は締結されていないと即座に説明した。

マスク氏は6日、「最も安全で先進的な接続をイタリアに提供する用意がある」と発言。ただ、契約が結ばれたのかは明らかにしなかった。

イタリアの野党政治家らには警戒感が広がっている。中道派のリーダー、カルロ・カレンダ氏は「マスク氏がヨーロッパで極右勢力を支援し、フェイクニュースを拡散し、各国の内政に干渉している最中に、こうしたデリケートな機能を彼に渡すなどという選択肢はありえない」と話した。

(英語記事 Europe leaders criticise Musk attacks

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cn0x0lrp271o


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