米国、インド、日本、韓国、豪州は共同でSSAの機構を検討できる。民間の事業者を含むアジア・太平洋のSSA機構は国際関与と透明性、信頼醸成措置を強化し、宇宙空間活動の利益とリスクを共有する方途となるであろう、と論じています。
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衛星は通信、気象観測、災害予防など多くの分野で重要な役割を果たしていますが、それだけに数多くの衛星が打ち上げられ、おびただしい数の衛星や衛星の残骸(スペース・デブリ)が宇宙空間に存在し、衝突の危険が増しているので、そのような危機を管理する第一歩として「宇宙状況認識」(SSA)を国際的に広めるべきである、との論説です。
論説が言及している、EUによる「宇宙空間での活動の行動規範」案は、宇宙空間活動の透明性と信頼醸成措置に関する2007年の国連総会決議と、そのための具体的提案に関する国連事務総長の要請を受けて、EUが2008年に草案(2010年に改正案)を発表したもので、このことからも、宇宙空間の危機的状況に対する認識が広く共有されていることが分かります。
論説は、問題により有効に対処すべく、グローバルなSSA体制を補完するため、アジア・太平洋地域のSSA機構の設立を提唱しています。同地域には米国、中国、インド、日本など衛星打ち上げ国が集中していますが、中国は、EUの「行動規範」案には反対しており、アジア・太平洋地域のSSA機構の設立には消極的と思われます。むしろ、アジア・太平洋地域でのSSA機構設立は、宇宙空間においても日米豪印の協力を強化できる可能性を示していると言うべきでしょう。
宇宙空間で現在解決を必要とするもう一つの重要な問題は、論説も指摘する通り、宇宙空間の兵器化です。スペース・デブリについては、何が問題で、如何に取り組むべきかは明らかですが、宇宙空間の軍事利用の問題については、不明な点が多く残っています。そして、SSA機構が、この問題の解決に直接的に資するところは、あまり大きくないでしょう。
EUの「行動規範」案は、前文に「宇宙空間での活動と能力は、国の安全保障と国際の平和と安定の維持に重要である」と記していますが、本文では、具体的にどのように取り組むかは触れられていません。一方、中露も、独自の「宇宙空間への兵器配置および宇宙空間物体に対する武力による威嚇または行使の防止に関する条約」(PPWT)案を提示しています。PPWT案には、地上配備型の衛星破壊兵器(ASAT)を禁止していないという重大な欠陥がある他、ミサイル防衛に制約を与える可能性があり、日本としては支持できません。
宇宙空間の軍事利用には何が含まれるのか、それを規制する国際取り決めは可能かなど、この問題への取り組みは未だこれからですが、条約のような法的拘束力のあるものではなく、行動規範のような緩やかなルール、いわゆるソフト・ローの積み重ねによる以外に有効な方策はありません。日米豪印は、SSAだけでなく、この面でも協力を深化させていく必要があります。
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