<本日の患者>
K.W.さん、55歳、男性、観光物産会社社長。
「先生、前立腺がんのスクリーニングで何か新しいエビデンスは発表されましたか」
「今年5月、コクランがPSA(前立腺特異抗原)による前立腺がんのスクリーニングについての新しいシステマティック・レビューを発表しました。2013年以来のアップデートです」
「それで、新しいエビデンスはあったんですか?」
「はい。06年のコクランの最初のレビューでは、前立腺がんスクリーニングを支持するにも否定するにも十分な根拠は見出せない、という結論でした。13年のレビューは、スクリーニングで前立腺がんの発見数が増加したけれど前立腺がんによる死亡率には影響を及ぼさなかった、というものでした。
そして今回の最新レビューでは、ごく単純に言うと、16万人超の男性を対象に23年間追跡調査した結果、前立腺がんによる死亡者が、スクリーニングを受けた男性1000人につき2人減少したのです」
「そ、それって、スクリーニングをした方が良いと言うことですか」
「どう判断するか、難しいところです」
K.W.さんは、21年8月の『患者に「がん検診を受けたい」と言われたら?』と24年10月の『男性更年期障害のとんでもない誤解:下部尿路症状の経験を「患者中心の医療」で読み解く』で登場した、観光物産会社社長である。主として高血圧のマネジメントのために私が働く家庭医診療所を定期受診している。以前の記事で取り上げているように、前立腺がんのスクリーニングや下部尿路症状の心配についても相談してきている。
科学的エビデンス生成の難しさ—— 前立腺がんスクリーニングの20年
日常の診療や健康診断で医師が提示する検査や治療のオプションの多くは、科学的エビデンス(根拠)に基づいているのか? 残念ながら、その答えは「ごく少数のみ」である。まだ十分に研究されていない領域の臨床問題が多数ある一方で、世界中の研究者たちが長年積み上げてきたエビデンスを持ってしても判断が難しい診療上の意思決定も少なくない。
「症状のない男性に前立腺がんのスクリーニングをするべきか」という問いもその一つである。
26年5月、「コクラン」が、前立腺がんスクリーニングについての新しいシステマティック・レビューを発表した。「コクラン」とは、「現代臨床疫学の父」の一人でありランダム化比較試験(RCT)の評価と活用を提唱したアーチボルド・リーマン・コクラン教授(1909-88)が礎を築いた臨床研究評価グルーブの国際的ネットワークである。
