「子どもたちに“自由”を与えてやりたいと思うのです。“自由”というといろいろな解釈がありますが、風の谷幼稚園で教えたい“自由”というのは、自分の中にある思いを自在に表現できるような“自由さ”のことです」(天野園長)
多くの語彙を獲得していくことで、子どもたちは自分の内側にある複雑な「思い」を適切な言葉によって人に伝えることができるようになる。そして、その逆もしかり。人が伝えようとしていることを言葉を介して理解できるようになる。
また、言葉を手掛かりに自然や動物、人工物などあらゆるものへの好奇心を高めてゆくと同時に、言葉を介して人と話し合い、自分とは違った見解を受け入れる度量を広げていく。
つまり、言葉の力によって世界を広げ、人と心を通じ合わせ、社会生活を豊かにしていくことができるようになること。これが風の谷幼稚園の考える “自由”の獲得であり、語彙の獲得は幼児教育の仕上げの時期である年長児には欠かせないものと考えている。この認識のもとで先生たちは子どもたちに「言葉の指導」を行っているのである。
言葉の指導を通じて
思考力を育てる
さて、話をカリキュラム内容に戻そう。冒頭では「くじら」を当てる様子をお伝えしたが、この後、設問は「あくび」「マイク」と続く。実はこの順番にはある規則性が隠されている。さて、お気づきになられただろうか?
「くじら」
「あくび」
「マイク」
つまり、「く」の文字(音)が単語の「冒頭にあるもの」「中間にあるもの」「末尾にあるもの」を順番に当てさせていくのである。これを実際に行うと、勘のいい子どもは2問目の「中間にあるもの」が終わった時点でこの規則性に気がつき、最後の設問は「末尾に“く”の文字がはいっているもの」を思い浮かべながら質問をしてくるというから驚いてしまう。そして、もちろんこれは教育意図の想定内の話である。では、さきほど紹介した“自由の獲得”のほかに、どのような意図が込められているのだろうか?
「言葉の指導を通じて、子どもたちに思考力を育てていきたいと思うのです。ただ言葉をたくさん覚えさせるだけではなく、この語彙を獲得していく過程を通じて、“自分でいろいろなことが考えられるようになる”ということを重視して指導に当たっています」(天野園長)
「予測する力」や「類推する力」、あるいは「先を見通す力」や「いろいろなものを関連づけて考えられるようになる力」など、思考力の内容は多岐に渡るが、自分で考えることを促し、正解を覚えるのではなく自分の思考によって導き出そうとする姿勢を身につけさせる。これが「言葉の指導」の大切な目標だ。