しかし実に奇妙なことに、その議論はあっという間に雲散霧消した。先に述べた政治腐敗事件が生じて「政治改革」の機運が高まったからだ。その中で自民党を飛び出した小沢氏は、護憲派の勢力と手を組んで細川連立内閣を立ち上げ、他方、小沢氏を取り込んだ勢力は、福祉や年金などの各論をぶつけることで、自民党など憲法改正によって「普通の国」になろうとする勢力を阻止しようとし、メディアもその流れに乗り、やがて国民の関心もそちらへ傾いていった。
本来国家を支えるべき政治家たちが各論の世界へと追いやられ、「普通の国」論はあっという間に消えてなくなり、自民党にも国家より各論を語る「政策新人類」と言われる政治家が生まれるに至った。言わば、現民主党政権は、当初、押され気味だった護憲派の「うっちゃり」によって作られた、この20年来の流れの果てに咲いた徒花なのである。
その徒花はしかし、国家像がスッポリ抜け落ちた民主主義のおかしさを、私たちに気づかせてくれたという意味では、よかったのかもしれない。すでに外交・安全保障が国民の間でも大きな懸念の的になっている。また、迫り来る財政崩壊に主婦や学生まで不安を感じるようになっている。「コンクリートから人へ」というスローガンの危うさにも気づき始めた。現在の日本経済や財政の行き詰まりを解消するためには、結局、経済成長戦略を大黒柱に据えるしかなく、それなくして超高齢社会を迎える日本の福祉も成り立たない。加えて、オバマ政権の米国も、グーグル問題や台湾への武器供与などで中国に対してはブッシュ政権よりも強硬姿勢にシフトするなど、この10年の米中関係の基本構図も変化し始め、「日米中正三角形」外交など成り立たなくなってきた。
自民党・新党側から 対立軸を打ち出せ
こうした状況の中で、大きな政界再編の方向が浮上してきたが、それはやがて3つの対立軸をめぐるものに整理されてゆこう。第一の軸は、「大きな政府」か「小さな政府」か、あるいは福祉重視か成長重視か。2つ目は米国をとるか中国をとるか。3つ目は護憲か改憲か、である。この3つは、1つが決まれば自動的に残りの答えも導かれる。自分の足で立たなければ財政もままならない日本は、やはり「親米」をとり、日米同盟を支柱として自由主義の広がりに貢献し、グローバリゼーションの中で、「小さな政府」で稼がなければならない。同盟強化のためには、日本が自らの国益に関わる問題で米国と軍事行動を共にすることを可能にする集団的自衛権の行使に踏み切る必要があろう。
戦後経験したことのない大きな岐路に立たされている今こそ、もう一度、国の針路を本来の正しい方向に戻さねばならない。その第一歩として、自民党や新党の側からはっきりと、この対立軸を打ち出し、政界の再編が図られねばならない。
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