古い人形にはそれを大切にしていた人や家族の物語がある。工芸品としての美しさに触れるとともに、その物語をひもとくこともまた、人形展の楽しみの1つだろう。
三菱財閥ゆかりの静嘉堂文庫美術館で公開される「童子雛人形」と木彫彩色御所人形〔もくちょうさいしきごしょにんぎょう〕には、三菱本社4代目社長・岩崎小彌太〔こやた〕夫妻の物語が秘められている。同美術館学芸員の長谷川祥子さんによると、
「童子雛は昭和の初めごろ、小彌太が、孝子夫人のために誂えたものといわれています。作者は、当代一流といわれた京都の人形師・五世大木平蔵。昭和初期の京都は人形制作の爛熟期で、すばらしい人形がたくさん作られた時代です。財産のある方がお金に糸目をつけず最高のものを作らせた、その豪華な人形の有り様をご覧いただきたいですね」
童子雛人形は、京都のお土産として有名な御所人形のジャンルの1 つ。三頭身の赤ちゃんを見ているようで癒される
※写真の転用を禁じます
頭が大きく、ぽっちゃりとした童子雛人形は表情やしぐさがとても愛らしい。孝子夫人も心癒されたにちがいない。実は、この童子雛人形は、立派な段飾りやお道具類なども揃っていたが、戦後、散逸してしまう。それを京都府福知山市の著名な人形愛好家・桐村喜世美〔きりむらきよみ〕氏が情熱をかけて収集し、人形15体と道具類の多くが奇跡的に再び一堂に会した。現在は桐村氏の私設博物館「茂照庵〔もしょうあん〕」(福知山市)で雛祭りごとに公開されているが、今回、半世紀以上の時を経ての“里帰り”として公開されることになった。
昭和14年 静嘉堂文庫美術館所蔵 近づいて見ると、豊かな表情に引き込まれる ※写真の転用を禁じます
また、宝船の御所人形は、小彌太の還暦祝いに孝子夫人をはじめとして、当時の三菱各社の幹部多数が、五世大木平蔵に注文して贈呈したもの。通常は龍頭や鳳凰であったりする宝船の船首の飾りが「兎」の頭になっているのは、小彌太の干支にちなんだものだとか。
「船上の布袋様は小彌太の姿を写しており、また、この宝船の後に行列が続くのですが、その中の弁天様は孝子夫人の姿を写しているといわれています。仲睦まじかったご夫妻の姿が目に浮かぶようですね」
里帰りのお雛様やおめでたい人形行列とともに、卯年の春を祝ってはいかがだろう。
岩崎家の人形展─桐村コレクションのお雛様を迎えて─
〈開催日〉2011年2月5日~3月21日
〈会場〉東京都世田谷区・静嘉堂文庫美術館(東急田園都市線二子玉川駅からバス)
〈問〉03(3700)0007
http://www.seikado.or.jp/
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