2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2011年4月27日

 しかし、先進的な避難訓練を行っていた高島第一小でも、今回の大地震によって課題が浮き彫りになった。

成果と課題

 東日本大震災発生時刻は14時46分。低学年の中にはすでに帰りの挨拶を終え、児童を下校させていたクラスもあった。発生時に外にいた生徒は校門付近に集合させ、しばらく待機させることにした。心配になって子どもを引き取りに来た保護者にはそのまま生徒を引き渡し、その後残りの生徒を教職員が手分けして付き添って集団下校させ、各家庭まで送り届けた。しかし中には既に帰宅していた子どももいて、「なぜ帰してしまったのか」と保護者からのクレームが寄せられたという。矢崎校長は、「どの程度の規模の地震であれば引き取りに来てもらうか、取り決めを特に設けていなかったため、混乱してしまった」と反省点を述べた。

 東海地震発生の予知情報・警戒宣言が出された場合は、保護者が学校に子どもを引き取りにいくことが義務付けられている。しかし、今回のように実際に起きてしまった地震に対しては、国や教育委員会レベルでの約束事は特になかった。そのため、このたびの地震では、各学校よって対応がバラバラで、生徒全員を学校に待機させ保護者の迎えを待つ、教職員が送り届ける、集団下校をさせるなどの対応がとられたが、いずれにしても保護者は心配し、学校も混乱した。「今回の地震を教訓に、例えば震度5強以上の地震が発生した場合は、保護者が生徒を引き取りに来るなど、約束事が必要と感じた」(矢崎校長)という課題が見つかった。

 また、地震発生時、高島第一小では校庭に子どもを避難させなかったのだが、これについても多くの保護者が心配し、クレームが寄せられた。14時46分以降も何度も揺れが起きたため、校庭に避難することはかえって危険であると判断したのだが、保護者からすれば、「他の学校は皆校庭に集まっているのに、高島第一小はなぜ避難しないのか」という懸念が沸き起こっていたのだ。

 そこで矢崎校長は、地震発生から2日後に保護者説明会を開き、当日の対応とその理由、そして、普段から緊急地震速報で避難訓練を行い、訓練が形骸化しないように児童も教職員も自分たちできちんと判断できる力を養っていることを説明した。この説明会によって保護者の理解は得られたが、「我が校の避難訓練について、もっと普段から発信していき、保護者の理解を得るべきだった」と痛感した矢崎校長は、その後実施した卒業式と入学式では、式の最中に緊急地震速報の画面をスライドで映し出し、その仕組みを実際に見せることで学校の取り組みを保護者に伝えるようにした。今後も、発信は続けていくという。

 課題が浮き彫りになった一方で、訓練の成果も出ている。ある保護者から、「家に居るとき、テレビなどで緊急地震速報が出されると、自分は慌てふためいてしまうが、むしろ子どもの方が落ち着いて行動しているのを見て、普段の訓練の成果が現れていると感じた」という声が寄せられたという。また、この訓練によって、地震に限らず「あるサインが出されたときに、素早く行動する力」を身につけるという意図もあると、矢崎校長は語ってくれた。

緊急地震速報がなくてもできること

 しかしながら、現状では緊急地震速報が設置されている公立の小中学校は少なく、板橋区内の小学校では、高島第一小の他に2校のみである。設置には1校につき数十万円がかかり、財政的に難しいというのが現状だ。さらに残念なことに、設置されていても利用していない、もしくは速報が出されても、「きっとまたたいした揺れではないだろう」と判断し、揺れに備えない学校もあるという。実際に都内のある小学校では、3月11日に緊急地震速報が流れた際、特に校内放送などで知らせなかったところ、あの大きな揺れがきて混乱してしまった。せっかく設備が整っていても、管理職の意識によっては宝の持ち腐れとなるケースも少なくない。


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