「ポイントは、『(物が)落ちてこない、倒れてこない』場所に身を寄せることです。それを、自身で瞬時に判断できる力を身につけることが必要と考えています」(矢崎校長)。地震が起きたとき、普通教室にいるとは限らない。理科室、音楽室、家庭科室などの特別教室では、机がない場合や危険物を扱っている可能性も十分に考えられる。そのため、訓練はあらゆる場所、そして休み時間や掃除の時間など、あらゆる時間帯を想定して行われている。
また、あらかじめ避難訓練の実施を告知した場合、「落ちてこない、倒れてこない」場所を子どもたちに考えさせ、議論させる。教師が1から10まで教えてしまうのではなく、子どもたちが自ら判断できる力を身につけることに重きを置いているからだ。1年生の段階では瞬時の判断は難しいが、2年生あたりから、個人差はあるけれども、徐々にそれらを意識した行動がとれるようになるという。例えば、音楽室で「安全な場所」を子どもたちに尋ねると、ある生徒は立奏用木琴の下に隠れた。そこで先生が、「その木琴の足は何で出来ているかな?」と聞くと、子どもは木琴の足に触れて考え、「木でできているから、上から物が落ちてきたら潰れてしまう」と気づく。
他にも、一つの場所に子どもたちが集中してしまった場合、どんなことが起きるかを議論させる。机が一つしかない場所で、皆がその机のところに行ったらどうなるか。皆が一気に非常階段に押し寄せて外に出ようとしたらどうなるか…ということなどを子どもたちに考えさせ、「隠れられない」「危険である」という結論に達したところで、「落ちてこない」「倒れてこない」場所を複数予測しておくことも大切であることや、皆が集中しても冷静に他の場所を探す心のゆとりが大切なことを指導するという。こうして、一つ一つのシチュエーションを想像させたり、実際に体験したりしながら、子どもたちの思考力・判断力を鍛えていくのだ。
ユニークな地震の授業
さらに、地震計の設置だけでなく、東京大学防災科学技術研究所と京都大学の「首都直下型地震・防災減災プロジェクト」により東大地震研の大木聖子(おおき・さとこ)助教授が年に二時間程度、地震に関する興味深い授業を行っている。「ジャンプして地震を起こそう」と「緊急地震速報の仕組みを学ぼう」である。
前者は、設置されている地震計を利用して、子どもたち数名が思い切りジャンプして、その揺れの大きさを計測する。子どもたちが一生懸命飛び、地震計が感知した揺れの記録と、実際に起きた地震の揺れの記録を比較する。例えば2008年の岩手県で起きた地震の揺れの記録と比較すると、一目瞭然。遠く離れた場所で起きたにもかかわらず、その記録の幅の大きさから、地震のエネルギーを実感し、驚き、恐れる。後者では、鉄の矢倉にバネのついたおもりをぶら下げ、それを揺らしてP波とS派を再現する。先行して速く、小さく揺れるP波と、後から来て大きく揺れるS波を見て、子どもたちは、緊急地震速報がP波を感知して出されることを理解する。ある生徒は、「大きなS波に備えるために、家に帰ったら家族で相談したい」と、早速防災意識が高まっている様子だった。
安全教育が専門の東京学芸大学・渡邉正樹教授は、「安全教育とは、理論と実践の両輪によって高められる」という。「地震や二次災害の脅威を知識として正しく理解し、その上で実践的な避難訓練を行うことが重要である」と、まさに高島第一小学校が実践している教育内容の重要性を示した。「学校での避難訓練は形骸化しやすい。今回の地震は下校時に発生しているため,従来の避難訓練では役に立たず、相当の混乱をきたしたと思われる」と、昨今の安全教育に警鐘を鳴らした。