先行きは不透明なままだ。プロボクシングの元WBA世界ミドル級王者・村田諒太選手が現役続行を表明した。10月20日に米ラスベガスで挑戦者のロブ・ブラント(米国)にWBA王座のV2戦で敗れて陥落。敗戦直後は引退の可能性もほのめかしていたが、再びリングに上がる決意を示した。しかし「現役続行」だけが華々しくクローズアップされている割には具体的な青写真が何も見えて来ない。その決意表明から1週間が経過したものの、どうやら水面下での再起戦プランは未だ難航している模様だ。
村田は12月4日の会見から2週間ほど前、所属の帝拳・本田明彦会長に現役続行の意思を伝えたという。これを受け、陣営も再起戦のマッチメイクに向けて動き出していた。当初の照準とされていたのは新王者ブラントとのリマッチ。通常はプロボクシング界の現行ルールでダイレクトリマッチは余程の理由がない限り、原則として認められていない。それでもブラントが村田と同じ米国のトップランク社とプロモート契約を結んだことで強い追い風が吹いていた。前回の世界戦直後、トップランク社CEOのボブ・アラム氏が来年春に東京でブラント対村田のダイレクトリマッチ実現を明言していたからだ。
ところが結局、これもご破算。村田が引退することも視野に入れたため、当初は村田側と交渉のテーブルにつく用意があるとの姿勢を見せていたブラント陣営も態度を硬化してしまった。トップランク社もダイレクトリマッチの実現を白紙撤回。同社が契約を結ぶ同級5位エスキバ・ファルカン(メキシコ)との初防衛戦を来年2月15日、王者ブラントの地元ミネアポリスで組むことが内定した。
ブラントもファルカンも村田と同じトップランク社のお抱え選手だ。そう考えれば、この対戦の勝者に村田が挑戦するマッチメイクはトップランク社主導で行われるだけに比較的容易な形で確かに進みそうな気がする。
しかしながら事はそう簡単ではないようだ。ブラント、ファルカンともに「次」の対戦相手として村田への関心がなくなりつつあるという情報が飛び交い始めているからである。まずブラント陣営の〝本音〟について事情通は、このように打ち明けた。
「ブラントが目指すのはWBAスーパー、WBC世界ミドル級王者の『カネロ』ことサウス・アルバレス(メキシコ)のような絶対的な存在。そういう意味では米国のリングで防衛戦を重ね、強豪たちとの対戦で実績と名声を高めていきたい。前回の対戦で完膚なきまでに打ちのめし、米国で商品価値を大きく落とした村田には、すでに見切りをつけている。
絶対的存在のアルバレスがスーパーミドル級への転向を目論んでいる今、次に向かいたいのはIBF王者のダニエル・ジェイコブス(米国)、もしくはWBC暫定王者のジャモール・チャーロ(米国)、WBO王者デメトリアス・アンドラーデ(米国)との統一戦。その夢に突き進むため、村田と日本でリマッチを行って返り討ちにしたとしてもブラントにとっては単なる足踏みにしかならない。
それならば、ラスベガスのリングでもっとネームバリューの高い相手と防衛戦を行ってビッグマネーを得たい。それがブラント陣営の本音で残念ながらトップランク社側も同調していると聞く。そう考えると、あのアラム氏のダイレクトリマッチ発言は日本のメディアに向けたリップサービスだったのかもしれない」
だが、ファルカンが勝てば多少風向きは変わるはず。ファルカンにとって村田はアマチュア時代、ロンドン五輪決勝で戦って敗れ、銀メダルに甘んじる結果となった因縁の相手。プロのリングでのリマッチ実現をファルカンは方々でアピールし続けていた経緯がある。トップランク社としてもデビュー以来20連勝中で無敗街道を突き進む五輪銀メダリストを売り出したい思惑があるだけに、ロンドン五輪の金銀メダリスト対決となればドラマ性は抜群だ。ところが実際のところ、これにも「?」が漂う。