2024年7月15日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年1月12日

 インティは最近、この家の奥さんに紹介されたクリニックで、1万3000元(約15万6000円)かけてまぶたの二重をくっきり見せる美容整形手術をした。「これから先もこんな風に家政婦をやりたいとは思わない。少しきれいになって、コンピューターでも勉強すれば、ほかに道が開けるかもしれない。やっぱり見かけは大切だから」と話す。あるいは、自分で店を出すことも考えているという。「これまで弟(工業大学に在学中)の教育費や実家の建物の修繕費、太陽熱利用の温水器など、家のためにお金を工面してきた。これからは自分のことをもっと考えたいの」

 そんな風に言いながら、インティはあまり努力しているようには見えない。インティの姉は固定の仕事の入っていない時間に、マルチ商法の会社から日用品などを仕入れて売っている。インティは「注文が入ってから店に品物を取りに行って、お客に直接届けるという作業を繰り返すのよ。疲れるから私はやらない」。私と息子が北京にいない時期、インティが我が家で働くのは毎日1~2時間にすぎない。空いた時間にほかの仕事をするのかと思いきや、「今は寒いから暖かくなってから考えるつもり」

 「旧正月の休暇は帰省するつもりはない」と言っていたが、姉が子どもに会いに帰ることになったので、一緒に帰るという。しかし、「家に帰ってもせいぜい1週間が限度かしら。寒いからそれ以上いると風邪を引いてしまうの」

児童虐待の悲しい現実

 出稼ぎ労働者の多くは親や子どもと離れて生活している。1年に1度の春節でさえ、故郷に帰れない人も少なくない。互いに支え合える人が周りにあまりいないという環境は、非常に不安定である。市民権のない都市では、彼らは制度面でも守られていない。都市で結婚して子どもをもうけても、市民にはなれず、いつまでも「よそ者」の状態だ。

 1週間前に読んだ中国語版Yahooの特集ページ(http://news.cn.yahoo.com/newsview/houmanuedai/ほか)には、3つの児童虐待のケースが紹介されていたが、虐待された子の親はいずれも農村出身の出稼ぎ労働者だった。

 1つ目のケースでは、出稼ぎ先の広東省で知り合い同棲していた四川省出身のカップルの2歳半の男の子が、意識不明の重体になっていた。カップルは男の浮気が原因で別れたのだが、女は働きに出るため、男と住み始めた浮気相手に子どもを預けた。浮気相手の女が子どもに手を上げた可能性があるとして逮捕されている。

 2つ目のケースでは、2歳の女の子が両親の離婚後、引き取られた父親と父親の再婚相手に暴力を受け、危篤状態に陥っていた。女の子の両親は湖南省から珠海市に出稼ぎに来て知り合った。離婚後、福建省に出稼ぎに出た母親は子どもの変わり果てた姿を見て、「必ず法的な責任を追及する。子どもの養育権は私が取り戻す」と述べている。

 3つ目のケースでは、河南省新密市の夫婦の3歳の女の子が、お漏らしをしたことに腹を立てた父親に蹴り上げられ、亡くなった。この女児は普段から父親に暴力を受けていたという。暴力が原因でカップルは別居状態にあった。

 家族が崩れてしまっている。人々の心が荒れ果てている。インティのような若い出稼ぎ労働者が夢を見続けられるようにするには、どうすればよいのか。無邪気なインティの顔を見ながら、そんな風に思った。

本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜

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