「なぜうちが」
押しつけあう自治体
福島第一原発から150キロ以上離れていながら、局地的に高い放射線量を観測し、いわゆる「ホットスポット」として有名になってしまった千葉県柏市、松戸市などの東葛地域。昨年6月、この地域で出るごみを清掃工場で焼却した灰から最大で国の基準の9倍近い約7万ベクレルの放射性セシウムが検出された。その後は、低下傾向にあるが、いったん国の基準以上の値を検出したことをきっかけとして、この地域の自治体は焼却した灰の処分に頭を悩ますこととなってしまう。
環境省の基準では、ごみの焼却灰を埋め立て処理できるのは、8000ベクレル以下とされている。しかし、昨年6月以降は、「基準値以下であっても、この地域の焼却灰をどこも受け入れてくれなくなった」(松戸市)のだ。
そもそも松戸市では、これまでごみの焼却灰をそれぞれの市内で埋め立てをするのではなく、遠く秋田県などの処分場まで運び埋め立てていた。その理由は東京郊外の住宅街が広がる同市では、処分場の用地を確保するのが困難だったためだという。
ところが昨年6月以降は、市内の清掃工場のなかに保管しなければならなくなった。国のガイドラインでは、基準値を超えた焼却灰は清掃工場内に保管しなければならないとされているが、基準値以下であっても受け入れ先がないので、同じように保管せざるを得ないのだ。
しかし、市内の清掃工場内の保管場所はスペースが限られている。松戸市の人口は48万人あまり。市内だけで1日およそ40トンものごみの焼却灰が出る。焼却灰は市の清掃工場の駐車場に保管を続けているが、日々増え続けており、市の担当者は「このままでは保管場所が確保できなくなり、最悪稼働停止と言うこともあり得る」と悲鳴を上げる。
松戸市では国のガイドラインどおりに清掃工場内に保管するのはもはや困難だとして、別の場所での保管を検討中だ。いわば、これまで近隣に処分場を確保せず東北地方など遠隔地の処分場に依存してきたためにこうした事態に追い込まれてしまったといえる。
隣の柏市では、年明け早々に南部クリーンセンターが2カ月間にわたって稼働停止に追い込まれた。市内のもう一つ清掃工場は稼働していたので、市民生活に大きな混乱を出すことはなかったが、稼働停止は昨年以来、2度目。綱渡りのごみ処理はいまも続いている。
こうした状況を打開しようと、両市に我孫子市、印西市など6市1町が県に焼却灰の保管場所を提示するよう要請したのが、昨年8月のことだ。2カ月後に県が提示したのは、県の下水処理施設である「手賀沼終末処理場」の敷地の一部を保管場所とする案だ。ところが、この案には手賀沼処理場が位置する我孫子市と印西市が猛反対。我孫子市の星野順一郎市長は「この処理場だけで保管するのは納得できない」と述べ、昨年12月には、我孫子市議会でこの案に反対する協議書が可決された。
我孫子市の清掃工場では、主灰と飛灰が分かれない流動床という焼却炉を使っていた。この焼却炉は灰に放射性物質が濃縮されにくいことから、震災以前から埋め立てをせずセメント業者に引き取ってもらっており、焼却灰を保管していない。我孫子市にすれば、どうして他の市の焼却灰をわざわざ市内にある処理場に受け入れなければならないのか、ということだ。
事態打開のため5市の副市長が集まって3回にわたり会合を開くなど調整の動きも見られたが、話し合いはまとまらない。県に我孫子・印西両市の市議会や住民を説得するための説明会を開くよう求めるなど、県にまる投げしてしまう。
だが、県はあくまでも「手賀沼終末処理場」案との立場で調整もできず、この案は宙に浮いたままだ。
県や各市からは、国による調整を望む声も聞かれるが、廃棄物処理法では、ゴミ処理は市町村が請け負うことと義務付けられており、国まかせにすることは通用しないはずだ。
WEDGE5月号第2特集『住民エゴと自治体の機能不全』では、こちら第1部のがれき受け入れ問題同様に問題となっている「迷惑施設」から、日本の地方自治の危機に警鐘を鳴らしています。
◎国頼みのがれき受け入れ
◎保育園も迷惑施設?
◎ごみ処理で迷走20年
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