東日本大震災で発生した大量のがれきは岩手・宮城両県であわせて2000万トンを超える。その量は岩手県の通常の年間処理量の11年分、宮城県にいたっては19年分にもおよぶ。がれきの撤去が進まなければ、復興もままならないが、県内の処分場だけでは処理が追いつかない。このため、このうち400万トンを全国の自治体に処理を肩代わりしてもらおうというのが広域処理の考え方だ。ところが、この広域処理が一向に進まない。今年3月末の時点で県外の自治体が受け入れたがれきは10万トンに満たない。
責任逃れで進まないがれき処理
じつは震災から間もない昨年4月に環境省が行った調査では、全国で42の都府県と572の市町村が受け入れの意向を表明していた。ところが、放射能汚染への懸念が報じられるようになると、どの自治体も挙げたはずの手を一斉に下ろしてしまった。年末の段階で実際に受け入れたのは、東京都や青森県、山形県だけ。住民からの反対を懸念したのだろう。実際、神奈川県のように知事が受け入れを表明したとたんに激しい反対運動につながったところもある。
被災地に近い青森県や山形県は別にして東京都が受け入れを実施できたのは、石原慎太郎知事の個性ゆえだろう。都には都民数千人から反対意見が寄せられたが、記者会見で石原知事は、「(放射線量を)測って、なんでもないものを持ってくるんだから、『黙れ』と言えばいい」と言ってみせた。他の自治体トップにはこうはいかないかも知れないが、なぜ強いリーダーシップを発揮することができないのだろうか。
問題はトップだけではない。今年3月にがれき受け入れを表明した沖縄県南風原町の城間俊安町長は、こう嘆く。「東北の人たちが困っているというから助け合いの精神で、放射線量に問題がないものにかぎって受け入れると表明したら、役場にすごい数の抗議の電話がかかってきた。地元だけでなく東京や埼玉からも。どうして県外の人たちから抗議されるのかと驚いた」
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いったんは受け入れを表明しながら、取りやめた関西のある県の担当者はこう話す。「放射線量を検査してから持ち込むわけだから問題がないのはわかっている。それでも『子供の健康に影響があったらどうするの』と住民から抗議されると、万が一のことを考えてしまい、とても責任を負えないという気持ちになってしまう」
つまり、がれきの広域処理が進まないのは、放射能汚染のリスクの問題というよりも、むしろ自治体がこれに取り組むだけの意思と能力を持っているかどうかの問題なのだ。
このことを如実に示すのが右図だ。この図は今年3月9日と28日の時点で、がれきの広域処理をすでに受け入れた、あるいは受け入れを表明した自治体を表したもの。9日には西日本で表明していた自治体はわずかだが、28日には一変している。きっかけは、13日に開かれた政府の関係閣僚会合で、特別措置法に基づいて野田佳彦首相名で全国の都道府県などに広域処理に協力するよう要請文書を出すことが決まったことだ。
先ほどの県の担当者も、「政府の要請だから受け入れてくださいと住民を説得しやすくなった」と打ち明ける。国に責任転嫁できるようになるまで、リスクはとりたくないというのが自治体の本音のようだが、こんなことでは地方分権などおぼつかない。