
イギリスの裁判所は14日、複数の男性に強姦(ごうかん)され、アジア系の犯罪集団に人身売買されたと虚偽の主張をしたとして、司法妨害罪などで有罪となった女性被告に、禁錮8年半の刑を言い渡した。
エレノア・ウィリアムズ被告(22)は2020年5月、襲われて殴打されたとして、ソーシャルメディアに負傷した自身の写真を投稿。自宅のあるイングランド北西部カンブリアの町バロウでは、警察などに対する抗議デモが起きた。
しかし、プレストン刑事法院の審理では、被告が自らをハンマーで傷つけたことが明らかになった。
このことで被告は今年1月、司法妨害など8件の罪で有罪判決を受けた。
今回の量刑の審理は2日間にわたった。被告によって3年間、無実の罪を着せられた男性3人が、虚偽の訴えのために攻撃を受けたり「この世の地獄」を味わったりし、自殺を図ったと述べた。
そのうちの1人のジョーダン・トレンゴーヴ氏は、2019年3月の夜に被告と外で会った。酔った被告は自宅に送り届けられた。
被告はその後、同氏がその夜とさらに2回、ナイフで脅すなどして自らを強姦したと訴えた。
トレンゴーヴ氏は裁判で、自宅に「レイプ犯」という文字をスプレーで書かれたと述べた。
ウィリアムズ被告はまた、12歳の時からモハメド・ラムザン氏によるグルーミング(わいせつ目的で手なづけること)の被害に遭い、オランダ・アムステルダムの売春宿で働かせられたと主張した。
バロウ在住のビジネスマンのラムザン氏は、ソーシャルメディアで「数え切れないほどの死の脅し」を受けたと話した。
被告は警察に、ラムザン氏にイングランド北西部ブラックプールに連れて行かれ、いくつかの場所で複数の男性との性交を強要されたと証言していた。
しかし、警察が調べたところ、被告は独りでブラックプールに行き、ホテルに宿泊していたことがわかった。
オリヴァー・ガードナー氏は、プレストンである晩、被告と出会った。その後、被告をアジア系男性2人に売ったレイプ犯だとして、被告から非難されるようになったという。
その結果、同氏は精神保健法に基づいて病院に収容された。
「虚偽のために異常な努力」
ロバート・アルサム判事は、ウィリアムズ被告は幼少期から困難な経験をし、自傷行為の過去もあると述べた。
しかし、被告の告発は極めて重大だと指摘。「反省の色が見えない」のと、「なぜこのような犯行に及んだのか説明がない」のは問題だとした。
また、被告の主張は「完全なフィクション」だとしたうえで、「このようなうそをついた理由は、被告が言わない限り分からない」と述べた。
判事はさらに、「被告は自らに大きな傷を負わせるなど、虚偽の告発のために異常な努力をしている」と述べた。
そのうえで、告発によってバロウは約4カ月間、「張り詰めた状態」になったとした。
裁判では、地元警察に対する脅迫がソーシャルメディアであったと説明された。また、ウィリアムズ被告がフェイスブックに写真を投稿した後、デモ参加者の一団が車で、バロウとウルヴァーストンを往復したとの説明もあった。
抗議デモは、警察署の前やショッピングセンターで行われた。裁判では、極右団体イングランド防衛同盟(EDL)を創設したトミー・ロビンソン氏がバロウを訪れた際の映像が流された。
判事は、警察が「一方では隠蔽(いんぺい)に加担していると考える人たちから圧力を受け、他方では自警団に危険を感じている人たちから圧力を受けていた」と述べた。
被告の手紙を代読
アルサム判事による量刑の言い渡しに先立ち、弁護側がウィリアムズ被告の手紙を読み上げた。その中で被告は、「一部について間違ったことをした」ことは分かっており「申し訳ない」とした。しかし、有罪判決は受け入れないとした。
被告はまた、自らのフェイスブックへの投稿が「引き起こしたトラブル」に「大きな衝撃を受けた」とし、「もしどんな結果になるか分かっていたら、決して書かなかった」とした。
さらに、「コミュニティーで起きたことは、私が招いたわけではない。私の家族はトミー・ロビンソンを町に呼びたくなかった」と主張した。
虚偽の告発を受けたトレンゴーヴ氏は、今回の量刑は十分ではないとし、警察に対して行動を取るつもりだと記者団に述べた。
一方、ラムザン氏は「勝利の感覚はなく、悲しみだけだ」とし、「家族と私がこれからどうやって立ち直ればいいのか分からない。中傷は尾を引き、しばらく時間がかかりそうだ」と述べた。
ウィリアムズ被告は先月、有罪判決に対して控訴したと発表した。
カンブリア警察のマシュー・ピアマン警部補は、被告からの被害の申告について、「当初は最大限、深刻に受け止めた」とし、そのために「大規模な捜査」を開始させたと述べた。
そして、「長く複雑で、最終的には悲劇的な事件であり、バロウの暗い時期でもあった」と話し、次のように続けた。
「事件の全容が明らかになった今、警察が性的および身体的虐待の申告を極めて深刻に受け止め、徹底的に捜査することが示されることを期待している」
「性的または身体的虐待の被害に遭った人は、今すぐ通報してもらいたい。話はじっくりと聞くし、サポートもする」