同社ビジネス成長部門の責任者であるデニス・グッド氏は「混合割合の種類が多いほうが消費者にとっては選択肢が増え、魅力が高くなる。エタノールなら価格も安く、化石燃料への依存度も減らせるし、脱炭素にも貢献できる」とその魅力を話した。
消費者利益は約950億ドル
すでに米国ではどのスタンドでも「E10」が標準ガソリンとなっており、訪れた米国ではほぼすべてのガソリンがE10だった。最近はさらに進化し、エタノールの割合がより高い「E85」と「E15」が増えつつある。
米国のエタノール生産事業者で組織した「再生可能燃料協会」(RFA・49社加盟)によると、全米にはガソリンスタンドが約12万5000カ所あるが、「E85」を売るスタンドは約5900カ所、「E15」は約3250カ所あるという。「E85」の販売スタンドが多いのに驚く。
では、エタノールの割合が増えることは消費者にどんな利益をもたらすのか。同協会によると、19年から22年までの間、エタノールの価格はガソリンに比べて、1ガロン(3.785ℓ)あたり平均0.77ドル安かった。1ガロンあたり0.77ドルと言われても、すぐにはピンとこないが、これを日本のガソリン価格にあてはめてみると、驚くべき数字となる。
1ドルを150円と仮定すると0.77ドルは116円。1ℓあたりに換算するとなんと約30円にもなる。日本のガソリン価格が1ℓあたり30円も安くなれば、消費者は大喜びだろう。「環境によいからエタノールを使いましょう」といっても、ガソリン価格より高ければ、富裕層しか利用できない。
エタノールの価格が安く維持できているのは原料のトウモロコシの生産性が高いからだ。トウモロコシの栽培面積は増えていないのに、生産量は1930年代に比べて約9倍にも増えた。エタノールの導入で消費者にどれくらいの利益があったかについて、同協会のエドワード・ハバード氏(法務担当最高責任者)はスライドの数字を見せながら次のように述べた。
「エタノールの混合で年間約950億ドル(1ドル150円として換算すると約14兆円)が消費者の利益(英語の言葉はsavings、国民にとって950億ドルが節約できたという意味)になった。おそらく25年にE15ガソリンがどこのスタンドでも利用できるようになっているだろう」
日本へ輸出する余力はあるのか
エタノールのメリットは分かったが、米国では今後もエタノール需要が増えることを考えると、はたして日本をはじめ海外へ輸出する余力があるのかが心配になってくる。
米国では現在、約6000万kℓのエタノールを生産し、そのうち約540万kℓ(23年)をカナダや英国、インドなどへ輸出している。日本で仮に「E10」が普及すれば、ガソリン消費量の1割にあたるおよそ400万kℓのエタノールが必要になる。いま米国のエタノール業界はSAF(持続可能な航空燃料)にもエタノールを利用する戦略をとっているだけに、今後、貿易の上でエタノールの需給がひっ迫するおそれが懸念される。