2025年1月9日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年1月8日

中国が確実に実行している〝戦争〟

 この観点からは、中国が実践している「超限戦」(制限のない戦争1999年、中国軍人2人の著書)に対する認識を深め、日本も早急に対応を取ることが不可欠である。「超限戦」とは、戦争の新しい原則は武力を使って敵を服従させることではなく、軍事と非軍事、軍人と非軍人との境界がない、あらゆる手段を使って政治目的を達成するということであり、貿易戦、ハッカー戦、金融戦、生態戦、資源戦など25種類の戦いが例示されている。

 過去数十年にわたり、中国やロシアは実際に「超限戦」を実施してきたと思われるが、中国は2010年以降、国防・治安・諜報に関する次のような新たな法律を次々と制定し、「超限戦」実施の法整備を整えた。それらを列挙してみると、下記のようになる。

①2010年国防動員法:有事の際、国家が民間人や施設を動員できる。中国国内の外資系企業も対象。23年全国各地に「国防動員弁公室」設置し、国家総動員体制がとれる仕組みを整備。

②14年反スパイ法:中国内外の組織・個人が行う中国の国家機密の提供などを対象。23年反スパイ法改定:国家の安全と利益にかかわる、文書、データ、資料の提供・買収、通報義務を規定。

③15年国家安全法:売国、国家分裂、反乱扇動、政権転覆、機密漏洩等防止・処罰を規定。20年には香港国家安全法も制定。

④17年国家情報法:中国国民・企業は、政府の指示があれば、スパイとして協力する義務などを規定。

⑤21年海警法:中国の主権、管轄権が侵害された場合、海上警察が外国軍艦などに武器使用を含む一切の措置を可能とした。

 西側諸国は、18年まで危機感が薄かった。しかし、18年に豪州で、中国共産党の豪政界、豪市民社会への浸透を描いた「SILENT INVASION」(邦題:『目に見えぬ侵略』)が刊行され、豪州の対中感は劇的に硬化した。

 また、その後、同書の続編にあたる「HIDDEN HAND」(邦題:『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』)も英独豪でベストセラーになった。本書は、中国共産党の世界的な影響力工作を描いたもので、「民主主義を利用して民主主義を弱体化させている」と指摘している。

 日本も、中国やロシアのこうした活動に侵されていないはずがなく、実態の把握・公表とスパイ防止法の早急な整備が不可欠である。

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