和平はロシアとウクライナが不利益を受ける
他方、もう一つの現実は、32カ国の合意を要するウクライナのNATO加盟は容易に実現しないだろうという事である。重要なことは、ウクライナがロシアの軍事的攻勢を跳ねのけるだけの力をもつことであり、そのためには強力な武器供与からNATO加盟に準ずる安全保障協定まで様々な可能性を検討することが必要である。
次に領土の問題については、ウクライナにとって奪われた領土の奪還は重要であるが、当然ながら「国民の安全」を確保することが最優先である。よって、ゼレンスキーとしてはウクライナ管理地域の安全が確保されるのであれば、ロシア支配地域が事実上ロシアの管理下にある状態を許容することはあり得るだろう。
最後に、和平は戦争当事者のいずれか、または双方が、自国にとっての不利益を受け入れることなくして成立しない。上記の解決策については、ウクライナは想像を絶する犠牲を払った上に、事実上、領土の2割を奪われるという現実を受け容れなければならない。他方、ロシアに、ウクライナがロシアのこれ以上の侵攻を許さない力をもつ国になることを受け容れさせるためには、そうしなければ自国の安全が棄損されるとプーチンに認識させることが必要である。
その関連で、プーチンはウクライナの戦場では優勢かも知れないが、より大きな戦略環境という面では必ずしもそうではないことに留意すべきだ。シリアの拠点喪失のリスク、黒海艦隊の弱体化、ドイツへのトマホークミサイルSM-6の配備予定、フィンランドへのF-35A Block4の配備等、欧州における戦略環境は決してロシアにとって優位とは言えない。今後行なわれるかも知れない和平交渉においては、このような全般的な戦略環境における西側の優位性をロシアに対する梃子として使うことが重要となろう。