2024年12月23日(月)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2010年4月1日

さて、子どもたちの間で議論になったのは、自動改札か、駅員が切符を切るのか、ということでした。
「切符を買ったらさ、どこを通ればいいの?」という和輝くんの言葉をきっかけに、
「あのね、機械の中に入れると自動で出てくるんだよ。そうすると、切符に穴があいてるの」と悠くん。「だから、その自動改札を作ればいい」という主張です。
こちらとしては、電車ごっこを通して一人ひとりが自分の役割を果たすことで、遊びがより楽しく展開するんだ、ということと、お互いに関連を持って動くことの大切さを感じさせたいと考えているので、“切符を切る駅員”も役割として位置づけたいと思っていました。なので、「自動で出てくる機械なんて作れるかなぁ・・・」と言ったのですが、何せ風の谷生活を通して様々な物を自分たちの手で作り出してきているんだという自信からか、「大丈夫だよ。ダンボールをカッターとかで切ってさぁ・・・」と作り方までをも考え始めてしまいました。
大慌てで「でもさぁ・・・」「すっごく難しいんじゃないかなぁ・・・」とあれこれ1人で格闘する私。それを知ってか知らずか「でも、自動改札じゃなくて、駅員さんが切符を切ってくれる所もあるよ。自動改札がなかった時は、みんなそうだったしね」と和俊くん。まるで助け舟を出されたような気持ちでした。そして「そういえばさ、前(鳥組の時)に乗せてもらった時は切符を(風組に)切ってもらったよ」と大城くん。
両方の方法が出たところで「じゃぁ、風2組の電車ごっこではどうすることにする?」と聞いてみました。すると、ほぼ全員が「切符を切る」という返事。自動改札派だった人たちも納得し、改札には駅員が立つことに決まりました。そして、「ここが改札ですってわかるように」改札を作ることにしました。
風2組 学級通信「麦」より

自動改札機だって作れるはず。「前向きな思考力」は確実に身についているようだ。

 子どもたちは「電車ごっこ」に必要なものは自分たちで作る。3歳で入園したときから「自分の手はすばらしいものを生み出せる手だ」ということを日常的に教えられ、年齢に応じてさまざまな道具の使い方を習得してきた年長児にとっては、「無いものがあれば、自分で作る」というのは、ごく普通の感覚のようだ。

 ここでは、「自動改札機」までも自分で作ろうとした子どもたちに、先生が驚いてしまったわけだが、このたくましくも頼もしい発想は“嬉しい誤算”だったかもしれない。

 「あれが無い。だから、これができない」という横着の言い訳は、大人の世界でも子どもの世界でもよくある話だろう。これは人間の性(さが)かもしれないと思いつつも、幼児期の教育次第で、常に問題を解決に向かわせるポジティブな思考力と行動力は後天的に育てられる。この事実を目の前の現実が証明しているようだ。

 これだけでも十分と思ってしまいそうだが、子どもたちが「電車ごっこ」で学ぶものはこれに留まらない。それは、天野園長が現代社会の大きな問題として捉えている「人と人とのつながり」を感じられる心だ。そして、人とのつながりを確固たる絆に深めていくためには、「言葉」を使いこなせる力が欠かせない。次回はこの内容について、紹介していこう。
 

※次回の更新は、4月8日(木)を予定しております。

風の谷幼稚園
園長・天野優子氏が、理想の幼児教育を実現するためにゼロから建設に乗り出す。様々な困難を乗り越え、1998年に神奈川県川崎市麻生区に開園。「人間が人間らしく、誇りを持って生きていく」ための教育を実践している。

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