2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2010年12月4日

 しかし、北朝鮮はこうした「戦略的忍耐」に対して、まさに忍耐ができないレベルまで挑発を上げようとしています。こうした行動が、3月の韓国哨戒艦「天安」の沈没事件、そして今回の砲撃事件へと結びついていると考えられます。この論理から考えると、米国が「忍耐」を継続するとすれば、さらに一段階強度の高い軍事的挑発が繰り返されることになり、その意味では北朝鮮の軍事行動を「限定的」とのみ侮ることはできません。その「限定」の行動レベル自体が上がっていくからです。

 なぜ北朝鮮は軍事的挑発のレベルを上げられるのか、それは北朝鮮が核開発計画に自信を深めたことにあると私は考えています。仮に戦略レベルでの軍事エスカレーションが生じた場合、北朝鮮にはソウルを射程に収めた長距離砲による攻撃手段とともに、韓国、在韓米軍、日本を核ミサイルで攻撃する脅しをかけることが現実的になってきました。こうなると、米国も軍事介入するコストがさらに大きくなりますから、北朝鮮自身が戦略レベルでの紛争を抑止できるという自信を深めるわけです。これが「限定的な軍事挑発をおこなったとしても、全面戦争には結びつかない」という彼らなりの理解に帰結しているのではないでしょうか。したがって、今後も限定的な軍事挑発行動は続き、かつそのレベルは上がっていくことになります。

「計算ミス」に対する懸念の増大

 このような北朝鮮に対する見方が正しいとしても、彼らが「対米交渉カードとして限定的挑発を続けている」という理解のみで片付けることはできません。それは北朝鮮の意図や米国の「忍耐」に対する「計算ミス」(ミスカリキュレーション)の可能性及びその深刻性が高まっているからです。北朝鮮が「限定」で済ませたいという意思があるにもかかわらず、米国や韓国の「忍耐」が切れて大規模な反撃を誘発する可能性があることです。北朝鮮と各国の間で、このような認識のズレがだんだん大きくなっていくことが、新たな懸念として生じています。

 この危険性を敏感に感じ取っているのは中国です。11月28日の午後、中国外務省が「重要な情報を発表する」と明らかにしました。急遽訪韓した中国の戴秉国国務委員が、ソウルで韓国の李明博大統領と会談した直後にこの発表があったこともあり、なにやら風雲急を告げる様相だと思われた方も多いでしょう。おそらくあの時点での中国は、かなりの焦燥感を持っていたのだと思います。もし北朝鮮が米韓合同演習に直接軍事的挑発を行うようなことがあれば、米韓はその反撃として事態をエスカレートさせる可能性が高まったからです。中国のいささか不自然な「重要な発表」は、こうしたリスクを回避させるための危機感の表れだったと捉えることが可能です。こうした中国の懸念にも象徴されるように、北朝鮮が続ける「限定的挑発」として米国の「戦略的忍耐」の関係性はますます不安定な時期に入っていくと思います。

米韓日中による包囲網の構築を

 現在の朝鮮半島情勢の緊張状態改善していくためには、北朝鮮に対して軍事的挑発行動の対価・コストを北朝鮮が堪えがたいレベルまで高めることが不可欠です。その意味では、北朝鮮のエネルギーや食糧に対する支援を続けている中国が、この対価・コストを北朝鮮に与えられるかどうかが、大変重要になります。


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