2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2010年12月4日

 しかしながら、中国は北朝鮮に必要以上の圧力をかけることによって、北朝鮮の全面的な軍事行動が誘発されたり(暴発シナリオ)、北朝鮮の政治体制が動揺して破綻すること(崩壊シナリオ)を強く懸念しています。こうしたシナリオが実際に生じれば、①北朝鮮の動乱に伴う軍事介入を招く可能性があり、②その結果38度線以北に米軍・韓国軍が展開・駐留する事態を招き、③中朝国境に大量の難民が押し寄せるといった、深刻な事態を招きかねません。

 したがって、中国が北朝鮮に対する圧力を強めるためには、中国の懸念を緩和するような環境を醸成する必要があります。具体的には中国、米国、韓国の間で北朝鮮情勢に対する緊密な協議を行い、北朝鮮を望ましい方向に導くための共通の認識をつくることです。当然ながら、中国は北朝鮮を包囲するような形での協議のあり方には現時点で賛成するとは思えません。しかし、事態の深刻性にかんがみ、北朝鮮の行動形態によって、中米韓三カ国がどのような共通をメッセージを出せるかは決定的に重要です。さらには、こうした協議の中で日本の役割も踏まえ①日米中韓の国防当局による、北朝鮮不安定化時の共同計画、②日中韓による、難民発生の際の国境管理計画、③米中韓による北朝鮮の体制不安定化の際の治安維持、核兵器管理、統治メカニズムに関するスキームづくりなどが協議できればさらに望ましいのですが。

日韓の安全保障協力の契機

 計算ミスのリスクを解消し、最悪の事態を避けるには、各国の対北朝鮮政策のストレスを長期化させず、北朝鮮に対する包囲網を早期に構築すべきです。

 延坪島砲撃を受け、李明博大統領はすぐさまオバマ大統領と電話会談を行い、黄海での合同軍事演習を実施しました。また日米も日本海及び南西諸島沖での合同軍事演習に踏み切りました。これはたいへんに早く、また明確なメッセージを持った行動でした。今後の日本はさらに韓国に対する支持を、もっと強く、堂々と表明するべきです。日本は、今回の出来事を機に、韓国との戦略調整を活発化させ、北朝鮮情勢に関する情報(インテリジェンス)協力や、物品役務相互提供協定(ACSA)などを含む日韓安全保障共同宣言を目指すべきだと思います。もう1つは、北朝鮮の暴発・体制崩壊後の対応を、事前に米韓中と協議しておくことです。日米韓のみならず中国も、こうした崩壊リスクまでをも見据えた協議の場に、段階的に参加していくことが求められます。来年1月、胡錦濤国家主席が訪米する予定がありますが、こうした機会を通じて米中両国の北朝鮮に対する政策調整を進めるべきだと思います。

 北朝鮮が限定的な軍事挑発を続ければ続けるほど、周辺国の結束が固くなり、かえって北朝鮮の目的は達成できなくなることを示す必要があります。それこそが北朝鮮が払うべき対価です。そのためにも日米韓の安全保障協力、日韓協力を進展させつつ、中国と本格的に政策調整を進める枠組みが必要です。

「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。


新着記事

»もっと見る