2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2018年5月15日

 私が勤務する国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)では、外国からの訪問者や滞在者向けに言語・文化のバリアを取り除いた「国際診療部」を2015年4月に新設した。

 全患者のうち、外国人の新規外来患者の割合は、15年には5~6%前後だったが、17年には12%と倍近くになっている。受診している外国人患者の6、7割が長期滞在者で、残りが観光客などの短期滞在者だ。

STUARTKINLOUGH/GETTYIMAGES

 そこで見られるようになったのは、がん・肝炎・HIVなど「高額医療」を必要とする外国人の患者が増えたことだ。そうした外国人の中には一定数、留学生ビザ取得者がいる。背景には留学生の増加がある。日本学生支援機構によれば、日本に来る留学生は、11年に16・3万人だったところから10万人あまり増え、17年には26・7万となった。

 解せないのは高額医療を必要とする事例だ。そもそも、重篤な病気を患っているのであれば、まずはそうした病気は、治癒あるいは治療して安定させてから留学しないと勉学に差し障る可能性がある。それにもかかわらず、わざわざ日本に来ている事例については、日本での「治療」が目的なのではないかと疑念が生じるのである。

 留学生ビザを取得するなどして、日本に3カ月以上滞在する外国人は、国民健康保険(国保)に加入する義務がある。前年に所得がない留学生だと、月に5000円程度支払えば、日本国民と同じように原則3割の自己負担で様々な医療を受けることができる。これは、外国人にとっては非常に魅力的な制度である。さらに、高額療養費や特定疾患の制度を使い、自己負担を減額することもできる。

 例えば、C型肝炎は本来なら数百万円の治療費が必要となるが、日本の国保に入れば国保の保険料と、月あたり1万~2万円の治療費で済む。完治には3カ月程度かかるが、自国で認可されていない新しい薬にアクセスしたり、保険がないまま医療ツーリズムで来日して高額な医療費を支払うことを考えれば格段に安上がりなのである。

 このような手法がこれまで以上に知られるようになった背景の一つに、「医療滞在ビザ」の存在がある。医療滞在ビザは、政府の「新成長戦略」のもと、アジアの富裕層等を対象とした健診、治療などのために11年から運用が開始された。医療滞在ビザには、日本の病院からの受け入れ許可と、身元保証機関との契約が必要となる。公的医療保険に入っていない外国人の診療費は、自由診療となるため、医療機関が独自に設定した2~3倍の治療費を支払うケースが多い。

 例えば日本人が100万円(3割の自己負担で30万円)の場合、200万~300万円になる。身元保証機関の企業にも手数料を支払う必要がある。身元保証機関というのは、日本で治療を受けたいという海外在住の外国人に日本の病院を紹介する斡旋機関のようなもので、渡航支援企業とよばれている。

 富裕層であれば、数百万円にもおよぶ治療費と手数料は気にならないかもしれないが、中間層以下であれば、それだけのお金を負担することは不可能だ。外務省によれば、16年の医療滞在ビザの発給は1307件で、その多くは中国人向けとなっている。


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