質問:予防接種には「定期接種」と「任意接種」がありますが、「任意」のものは受けさせなくても大丈夫なのでしょうか? 定期接種のスケジュールをこなすだけでも大変ですし……
答え:できれば受けたほうがいいでしょう。「任意」だから必要性が低いわけではありませんし、副作用が強いわけでもありません。
答える人 石橋涼子先生(石橋こどもクリニック院長)
日本では予防接種法により、接種することが勧奨されている「定期予防接種」のワクチンが定められ、その他のワクチンについては「任意接種」とされています。(参照:国立感染症研究所「日本の予防接種スケジュール」)
定期接種ワクチンについては国や自治体が費用を負担し、万が一接種により健康被害が起こった場合も予防接種法に基づく救済措置がとられることになっています。任意接種の場合は費用も個人負担で(自治体によっては独自に助成を行うところはあります)救済措置の制度も異なり「医薬品副作用被害救済制度」によるものになります。
それらは大きな違いではありますが、実際のところ任意接種のほうが副作用が大きいわけでも、リスクが高いわけでもありません。
子どもの予防接種では、2016年10月からB型肝炎も定期接種に移行したので、残った任意接種ワクチンの主なものはロタウイルスとおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)の2つです。どちらも「受ければかならずかからない」というわけではありませんが、高い確率で重症化は防げるので、できるのなら接種をおすすめします。
問題は費用で、おたふくかぜは多くの医療機関で1回5000円以上、ロタウイルスの場合は1回1万円を超えてしまいます。そのため「受けましょう」とも気軽には言いにくいのが実情です。「お金がないから受けられない」という状況は、感染症の流行を防ぐという予防接種の意義と矛盾してしまいますから、早く定期接種にしてほしいと個人的には思います。
なぜ定期接種になっていないのかというと、詳しい事情はわかりませんが、ロタウイルスワクチンについてはおおむね「比較的新しいワクチンで、日本国内で接種されはじめてから日が浅い」ということに尽きるでしょう。ワクチンが普及し始めてから重症のロタウイルス感染症による入院が減っているという報告は複数出始めており、定期接種にすべきという議論も進むのではないでしょうか。
おたふくかぜのムンプスワクチンがなかなか定期接種にならない事情のひとつには、かつて麻疹、風疹との新三種混合ワクチン(MMRワクチン)として定期接種されていた時期に、ムンプスワクチンが原因とみられる無菌性髄膜炎の発生率が高まったことで急遽中止された経緯があると思われます。麻疹と風疹のワクチンはその後それぞれ定期接種として行われ、現在は麻疹風疹混合(MR)ワクチンとして接種するようになっています。
またおたふくかぜは最近定期接種化された水痘に比べると感染力は低く、麻疹と違ってふつう症状は軽く、無菌性髄膜炎以外に大きな合併症もないと考えられてきたことも、ワクチンを徹底しようという動機に結びつきにくかった要因かもしれません。しかし近年、おたふくかぜに続発する難聴が以前考えられていたより多いことも指摘され、また無菌性髄膜炎についても、ムンプスワクチンを接種したほうが未接種でおたふくかぜに感染した場合よりも発症率が低いことがわかってきました。日本小児科学会も早く定期接種化するよう要望書を出していますが、まだ具体的にはなっていません。