2024年12月23日(月)

前向きに読み解く経済の裏側

2018年11月20日

 先日、「人はなぜ間違えた選択をするのか」という講演をしたので、エッセンスを御紹介します。

(adventtr/Gettyimages)

黙っている人の声を聞くのは難しい

 聞こえて来る声だけを頼りに判断すると誤ることがあります。たとえば、大教室で「寒いから暖房を入れて欲しい」と言って来た学生がいたとして、すぐに暖房を入れると他の全員から「暑い」とクレームされるかもしれません。現状に満足している人は、黙っていますから。

 円安の時、輸出企業は儲かっていますが、黙っています。「儲かっている」と言うと労組が賃上げを、下請けが値上げを要求して来ますから。円安の時、輸入企業(輸入原材料を大量に使う企業)は「円安で苦しいからボーナス無し。下請けは値下げして」と大きな声を出します。円高になると、今度は輸出企業だけが困ったと言い、輸入企業は黙っています。したがって、いつでも日本経済は困っているような錯覚に陥りますが、そんなことはありません。 

 農産物の輸入自由化を巡っては、農家は生活がかかっているので必死に反対しますが、国民の大多数を占める農産物の消費者は「輸入農産物が安く食べられたら少しは嬉しいが、賛成運動をするほどではない」と考えて黙っています。そこで、気をつけないと「日本人は反対派ばかりで賛成派は皆無だ」、と考えてしまうかもしれません。

 企業は、客からのクレームで製品を改良しようとします。「壊れた」というクレームは来ますが、「重くてデザインが悪いから買わなかった」というクレームは来ません。そこで、壊れにくく重くデザインの悪い製品が改良版として発売され、ますます売れなくなる、といったことも起こり得ます。本来は、ライバルの製品を買った客に理由を聞ければ良いのですが……。

 黙っている人が何を考えているのか、思いを巡らせて見ることが必要なのですね。言うは易く、行うは難し、ですが。

いない人の声を聞く

 カジノに入ると、店の中の客はだいたい儲かっていて笑顔です。そこで「客に優しい店だ」と勘違いして賭けると、大抵負けます。朝から1000人の客が店に来て、990人は負けて退散し、偶然勝っている10人だけが店の中に残っているのですから、筆者は11人目の勝ち客より991人目の負け客になる可能性が高いですね(笑)。

 同様のことは、起業して成功した人の学生向けメッセージにも言えます。「学生諸君、サラリーマンなんて夢がない。起業して私みたいな大金持ちになろう」と学生に語りかけるのは、例外的に成功した起業家です。多くの起業家は失敗して世の中の片隅でひっそりと暮らしているので、学生たちはその存在にさえ気づかないかもしれません。それは、学生たちにとって危険なことですから、大学教授である筆者は、学生たちに注意を呼びかけています。

因果関係に要注意

 A氏とB氏が似ている場合でも、AがBの親とは限りません。BがAの親かもしれないし、2人は兄弟かもしれないし、他人の空似ということもあり得ますから。これと同様に、AとBが同じような動きをするからと行って、それだけでAがBの原因だと決めるわけには行きません。

 「警官が多い街ほど犯罪が多い」というのは、正しいですが、では警官を減らせば犯罪が減るかというと、そうではありません。犯罪が少ない街は公園を作り、多い街は警官を雇う、ということですから、因果関係が逆ですね。今ひとつ、人口が多い街は警官も犯罪も多いので、人口1000人当たりの警官数と犯罪数を比べるべきだということも要注意ですね。

 株価は景気の先行指標だと言われます。しかし、株価上昇が景気を回復させるわけではありません。投資家たちが景気回復を予想し、企業収益の改善を予想して株を買うので、彼らの予想が当たると景気が株価上昇に遅れて回復することになるわけです。後から生じる事柄の方が原因だというのは珍しいですね。


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