前向きに読み解く経済の裏側

2018年11月20日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

最初の数字に囚われない

 「利根川は50キロより長いですか?」「では利根川は何キロですか?」と聞かれるより、「利根川は500キロより長いですか?」「では利根川は何キロですか?」と聞かれる方が、人々は大きな数字を答えるそうです。

 途上国へ行くと、10ドルの品に50ドルの値札を付けて、「半額セールだから25ドル」といった売り方をしている店が多数あるそうです。半額だと聞いて「安いから買おう」と即断しないように気をつけたいものです。

 親戚の若者が筆者を訪ねて来ました。「新入社員研修で我が社の製品を売ってこいと言われました。10個買って下さい」とい言われたので、仕方なく2個買いましたが、最初から「2個買ってください」と言われたら1個しか買わなかったと思います。さすがは我が親戚、優秀です(笑)。

 宝石店の入り口に500万円の宝石が置いてあると、店に入った客が5万円の宝石を見て「安い」と感じるのだそうです。あれは心理学者のアドバイスで置かれているのですね。

統計使いに騙されない

 「統計は嘘をつかないが、統計使いは統計を使って嘘をつく」と言われます。よく使われるのはグラフです。たとえば下のグラフで、どの会社の売り上げが一番伸びていると思いますか? Aは1から2、Bは10から19、Cは10から18なので、Aが一番伸びているのです。直感に惑わされないように気をつけたいですね。

 米国軍人の死亡率は米国人の死亡率より低いです。統計は正しいです。軍人で老衰死する人はいませんから(笑)。でも、「だから米軍は安全だ」と言われて信じる人はいませんね。20歳から60歳までの米国人と米国軍人の死亡率を比べないといけませんね。

 「凶悪犯の犯行直前1週間の食生活を調査したところ、98%の犯人が共通して口にしている危険な食品がある事がわかった。直ちに禁止しよう」と言われても、困りますよね。だって、コメですから(笑)。

 「これまでの私の手術は、10回に1回は失敗しています。昨日の手術も失敗しました」という医者と「私の手術の成功率は90%を誇っています。昨日の手術も大成功でした」という医者がいたとして、どちらの手術を受けたいですか?統計使いの話法も、似たような所があるかもしれませんよ。

正しいことがベストな結果をもたらすとは限らない

 正しいことが好きだ、という人は多いですが、過ぎたるは及ばざるが如しです。某大学は教職員や学生の受動喫煙を防止するためにキャンパス内を禁煙にしたところ、皆がキャンパスを出た正門前で喫煙するようになり、かえって通勤通学途上の教職員や学生の受動喫煙が増えたそうです。

 「海の水を一口飲んだら海の水が減る」という主張をする人は、物事の本質を見誤る可能性が高いので、議論の際に迷惑となる事が少なくありません。正しいという点では絶対的に正しいので、反論しにくい所が余計厄介です。

 データに基づかない議論は危険ですが、頼りすぎるのも危険です。データは過去のものですから、データを見てもバックミラーを見ながら運転するようなものです。バブル期に不動産担保貸出を行いたい銀行員が「昨年の我が銀行の不動産担保融資は全く焦げ付いていません。不動産担保融資は安全だから大いに注力しましょう」と語ったとか。これには上司も反論しにくかったでしょうね。

相手の視点で考えよう

 相手の視点でものを考えることは重要です。道徳の先生は「イジメられる子の立場に立って考えれば、イジメは出来ない筈です」というかもしれませんが、ビジネスの世界は別です。

 「絶対儲かる商品」を勧められたら、相手の視点で物を考えてみましょう。「自分が絶対儲かる商品を持っていたら、見知らぬ他人に譲ってあげたりするだろうか」と考えれば、詐欺にひっかかる確率は相当下がるはずです。

 店員が「お客様にぴったりの商品です」と言う時には、もしかすると「これは我が社の利益率が最も高い商品です」という意味かもしれませんから、要注意ですね(笑)。

世の中の情報は悲観論に偏っている

 世の中に流れている情報は、実際より悲観的なものが多いので、注意が必要です。まず、評論家は悲観論を好みます。問題点やリスクを多数指摘すると賢そうに見えるし、様々なリスクシナリオが描けるので、聞き手を楽しませることができます。一方で「大丈夫です。問題ありません」という楽観論は、聞き手が退屈ですし、何も考えていない愚か者のように見られかねませんから(笑)。

 しかも、評論家は悲観論が外れても怒られません。世の中がうまく行っている時は人々がハッピーなので、悲観論者のことなど忘れているからです。一方で、楽観論者が外れた時は、人々が不機嫌なので、楽観論者は批判されやすいのです。

 マスコミも、悲観論が好きです。情報の受け手が悲観論を好むから、ということが主因ですが、政府を監視し、批判することが使命だと考えるマスコミもあるようです。たとえば年金基金が運用で損を出すと大きく報道され、儲けると小さく報道されるので、一般の人々は「年金基金は運用で損しているらしい」と考えがちですが、実際には株高の恩恵で大きく儲けているのです。

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