2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2011年8月24日

生活保護の急増にともない拡大しているのが、受給者から利益を得る「貧困ビジネス」だ。なかでも「囲い屋」と呼ばれる業者は、生活困窮者を集めて保護を申請させ、保護費の大部分を様々な名目で搾取する手口で制度を悪用する。その実態を取材した。

 「なぜこんなところに?」と首を傾げたくなる場所に目指す建物はあった。神奈川県内の住宅街のただ中。6年前までホテルだったという7階建てのこの建物こそ、役所の担当者から、「貧困ビジネスの舞台になっている」と耳打ちされたところだ。

住宅街のなかにあった 貧困ビジネスの舞台

貧困ビジネスの舞台となっている建物(神奈川県)

 近づいてみると、建物にはスーパーの買い物袋を提げた中高年の男性が何人も出入りしていた。声をかけても、「余計なことをしゃべると怒られるから…」と、逃げるように立ち去る。次々に声をかけても同じ反応だ。仕方なく近所に住む住民に聞いてみた。「この建物はホテルの倒産後、空になっていましたが、一昨年になってNPOの相談員を名乗る者が『低所得者向けに住居を提供する施設にします』と挨拶に来たのです」

 それ以来、日が暮れる頃になると、NPOの関係者がどこからともなく車で男性たちを連れてきては、建物のなかに入れる姿が見られるようになったという。その数は日を追うごとに膨れ上がっていった。近所の住民は、昨年、この建物でぼやが起きたときのことを思い返す。

 「部屋のなかでカセットコンロを使って料理していてぼやになったらしく、消防車も出動する騒ぎになったが、そのときに中から一斉に入居者が避難のために出てきた。いつの間にこれだけ大勢が住むようになったのかと、びっくりしました」

 いったい建物に住む男性たちはどこから来たのか。粘り強く声をかけて続けていると、ようやく一人が取材に応じてくれた。

 「ここで暮らすのは、横浜や川崎で路上生活をしていたところを声かけられた人たちばかりですよ。『生活保護取らせてやるからこないか』って。」

保護費受給者にたかる搾取の実態

 NPOは路上生活者を連れてきては、この建物に住まわせ、役所で生活保護を申請させていた。保護費の支給が認められると、当然だとばかりに保護費のなかから入居費用を徴収する。小誌が入手したその請求書によると、1か月の請求額は、家賃だけでも5万3700円。共益費や水道光熱費、弁当代などすべて合わせると、なんと11万200円。支給される保護費は13万円ほどだから、大部分がNPOに搾取される形だ。

 毎月、生活保護費の支給日には、NPOの関係者らが役所の玄関で待ち構えている。入居者が保護費を持って逃げないように監視し、その場で徴収するのだという。

 取材に応じてくれた男性によると、建物内の各部屋はベニヤ板で仕切られ、2人以上が寝泊りしている。ホテルだったので、各部屋に風呂があるのだが、大浴場以外は使用禁止。共益費を払っているにもかかわらず、掃除されずに荒れ放題になっている階もある。

 「生活保護を受けても自分で自由に使えるお金はほとんどない。ただただ搾取されているだけです」

 それでも、ここを出ると住所を失い、保護費を受け取ることができなくなり、もとの路上生活に戻るしかない。やむを得ずこのまま居続けるしかないのだという。

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 この建物が所在する役所の担当者に聞くと、ここに住所を持ち生活保護を受給しているのは90人。NPOが保護費のほとんどを徴収している事実は、把握しているが、役所としては、就労が困難などの条件を満たしていれば、保護申請を認めざるを得えないのだという。


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