日本が風力発電の潜在力をもっていることを示唆するデータも相次いで示されている。昨年度から洋上風力発電の実証研究に着手しているNEDOは、日本の海岸から30キロ以内、水深200メートルまでの海域で年平均風速7メートル以上の風が吹くという条件で、利用できるエネルギーの量を試算した。計算結果は約12億キロワット。「この海域のうち4%を風力発電に利用できるとして、洋上風力発電の設備利用率を30%とすると、利用可能なエネルギーは4800万キロワット。これは、設備利用率80%の原子力発電所18基分ほどになる」と、石原氏は付け加える。
環境省も今年4月、再生可能エネルギーを導入した場合の発電量の見込みを発表している。洋上風力の導入ポテンシャルを、NEDOの試算を上回る16億キロワットとはじき出した。ちなみに、陸上風力の導入ポテンシャルは2億8000万キロワットだった。
洋上に風力発電施設をもっていけば、問題視されている人体への影響や、景観問題などもほぼ避けることができる。
もうひとつ、日本の気象条件として特徴的なのが、台風と落雷の多さだ。日本の嵐に風車は耐えられるのだろうか。実際、2003年9月には、台風14号が沖縄県宮古島を直撃し、風力発電設備が倒壊した過去がある。石原氏は「あれはヨーロッパで使われていた風車を沖縄にそのままもってきていた。日本での最大瞬間風速はヨーロッパより高く、台風時の停電により風車が制御不能になった。倒れたのは当然だった」と話す。この反省から石原氏は、日本における風力発電施設の設計方法を見直し、07年に台風や地震についての対策も含めた約400ページにわたる「風力発電設備支持物構造設計指針・同解説」を作った。「それ以降、台風で風力発電施設が倒れた事故は日本では一度も発生していない。東日本巨大地震の揺れと津波でも、倒れた風車は一基もなかった」と、石原氏は技術力向上に自信をのぞかせる。
また、日本の風車の被害要因となっている落雷については、NEDOが2008年に「日本型風力発電ガイドライン 落雷対策編」を策定。羽根にレセプタとよばれる雷保護装置を、また発電機の入ったナセルと呼ばれる容器に避雷針を付けるなどの雷保護対策をまとめて強化をはかっている。
さらにもうひとつ、日本で洋上風力発電を導入した場合、建設費がかさむことが懸念される。近海の海底が急に深くなるからだ。現在、欧州で主流となっているのは着床式。支柱を海底に突き刺す方式で、浅い海が広がる北海には適しているが、水深60メートル以上の深さで設置するとなるとコストが急に跳ねあがる。日本近海には、水深100〜200メートルの大陸棚が広がっている。
これに対して、石原氏が示す解決策は「風車を浮かせる浮体式」の導入だ。海底まで支柱を突き刺そうとすれば、建設費は水深が増すにつれて高くなる。だが、風車を浮き台などに乗せて浮かせてやれば、水深の深いところに設置しても、電力を陸上まで送る海底ケーブルを長くする程度の費用の上乗せで済むという。「100〜200メートルの水深であれば、浮体式にかかるコストはほぼ同じ。水深にコストが依存しない点が、浮体式の特徴。目標は2015年から浮体式洋上風力発電を実用化すること」と石原氏は話す。
太陽光だけに
注力してはならない
風力発電の研究者である石原氏が、その将来性を大きく見積もっている部分はあるだろう。しかし、これまで太陽光やバイオマスをはじめさまざまな再生可能エネルギーを取材してきた筆者から見ても、この洋上風力発電という選択肢は、技術的ハードルの難易度や日本の置かれた環境を考慮すると、かなり現実味のあるものに思える。