2024年12月23日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年12月17日

 ギリシアを震源とした欧州発の金融危機は今年の年初からずっとその危険性がささやかれてきたのだったが、中国は一貫して「欧州を買い支える」との姿勢を示してきた。そして実際にギリシアをはじめポルトガルやスペインなどの国債を買い込んだ。

 現在、中国の持つ外貨資産の約3割弱がユーロで運用されている。

 さらに中国はこれとは別に次の首相とされる李克強副首相や温家宝首相、賈慶林党中央政治局常務委員など最高指導部のメンバーを次々に欧州に派遣して大きなビジネス(主に中国が大量に買い付けるのだが)をまとめる商談を繰り返してきたのだ。

 だが、中国のこの姿勢は、EUがギリシア支援の枠組みを再び造り直すといった問題に直面した11月から大きな転換を見せ始めるのだ。

民意無視の資金援助はもうできない

 それまで欧州の危機は、その消費パワーに依存する中国も共有できる問題とばかりに支援を惜しまなかった中国が、「欧州の問題は、まず欧州の人々によって解決されるべきである」と突き放した発言を繰り返すようになり、欧州危機に備えた組織である欧州金融安定化基金(EFSF)のトップが訪中して支援を要請しても、なかなか快い返事をしなかったのである。

 まさに転換点だが、この変化の裏側には、「長い休暇と贅沢な暮しをする欧州の人々のために中国が、一生懸命働いて蓄えた資金を投じる必要があるのか」という声が国内に高まってきたことがある。「ヨーロッパ人を助けるお金があるなら、まず国内で困窮する人々を救ったり、年金や医療保障制度の充実のために使うべきではないか」というわけだ。

 これまでは潤沢な資金を中国外交の武器として自在に振り向けられた共産党政権も、いよいよ民意の反応を注視しながら援助を行わなければならなくなったのである。これも明らかな転換だ。

「バブル崩壊」は起こるのか?

 中国の欧州救済に厳しい民意の目が向けられるようになったことの裏側には、中国経済が下降局面に入ったとの事情も働いている。

 中国経済につきまとう先行き不透明感については、日本のメディアでも不動産価格の下落が始まったことを受け「いよいよバブル崩壊か」といった報道が目立ち始めている。

 もちろん不動産価格の下落はその象徴であるが、バブル形成に銀行の役割が限定的な中国では、かつて日本が味わった崩壊と同じような影響が出るとは考えにくい。さらに、現在の中国で問題になっている製造業の不振による失業者が大量に吐き出されている問題や貿易の停滞といった事実は、バブル崩壊のような一過的で処方箋のはっきりした病気というよりも、むしろ老化といったものに近い変化が原因だ。

 その証拠に中国では今年の後半、中国経済の今後を語るなかで「ルイスの転換点」、「中所得国の罠」といった言葉が頻繁に使われてきた。いずれも労働集約型産業と輸出による発展が限界に達し、次の発展段階への飛躍が課題になったことを示す言葉だ。


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