2022年7月3日(日)

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2012年1月10日

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松田康博 (まつだ・やすひろ)

東京大学東洋文化研究所教授

1965年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、博士(法学)。防衛庁防衛研究所主任研究官、東京大学東洋文化研究所准教授などを経て、2011年より現職。近著に『現代台湾の政治経済と中台関係』(共著、晃洋書房)など。

 

 馬総統再選の場合、不確実性は比較的低い。立法院でも過半数または比較多数の議席獲得が見込まれるため、1期目の政策が継続し、中国大陸との経済関係強化がさらに進むはずである。不確実性としては、政治の領域、たとえば「平和協定」の締結や軍事面での信頼醸成措置(軍事交流など)に踏み込むかどうかが今後は注目される。

 ただし、過去3年半で中台関係の経済面での進展が急速だったため、不安を覚える有権者が増えている。陳水扁前政権のように中台の対話が中断していた時期と比べると、中台の和解が進む現在「平和協定」には現実味がある。そのことが、馬総統の支持率低下と関連していると考えられる。警戒心の強い台湾住民には中国大陸との政治的な接近を受け入れる準備ができていないのである。

 他方、蔡氏が勝利した場合、中台関係の不確実性は高くなる。馬政権は、中国との間で、「一つの中国」という言葉が入っているコンセンサスを確認したことで、対話の回復や、直行便の開設、旅行客の受け入れ、経済関連の協定締結等を進めてきた。コンセンサスの定義について双方は意見が異なるが、そこに目をつぶって交流の進展に利益を見いだしているのである。

 ところが、蔡氏はこのコンセンサスの存在そのものを否定する立場にある。このため、彼女が当選すると、「一つの中国」原則にこだわる中国が、象徴的な一部の交流や対話を一方的に止める可能性が高い。ただし、経済交流に深刻な影響がでるほどの全面対立にはなりそうにない。また中国がそのような厳しい対応ばかりしていると、中国は台湾の民主的な選択を受け入れない国であるというイメージが強まり、対台湾政策上不利である。

 したがって中国がどこかで妥協して民進党政権との対話を進める可能性もないことはない。陳政権の時期にも、中国との関係は悪化と改善を繰り返したものの、最低限の関係進展は見られた。今回、双方とも不毛な対立を避けようと試みるはずである。問題は選挙の過程と結果で高揚する台湾人アイデンティティと、それに反発する中国ナショナリズムである。指導者交代時期を迎えていることも、中国が柔軟な反応を取りにくくさせる要因となりうる。当面、民進党政権が中国に対して積極的に交流を呼びかけ、中国が慎重に対応するという局面が続くことになるであろう。

台湾との関係を強化し、アジア・太平洋の安定を確保する
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 では、選挙結果は日台関係にどのような影響を与えるのであろうか。88年以降、日本式教育を受けた李登輝氏が総統になったことで、日台関係は発展した。ところが、95年以降中台関係が悪化し、日台の接近は中国から強い牽制を受けるようになった。これは、中台関係が非常に悪化した陳政権時代にさらに顕著となった。この時期には台湾旅行客のいわゆるビザ(渡航証明書)免除などの実務関係強化(表参照)に加え、安全保障面での各種交流が進んだ。日台関係の強化は、靖国問題に端を発する日中関係の悪化とあいまって中国から厳しい牽制を受けた。

選挙結果の与える日台・中台への影響

 この局面を変えたのが馬政権である。馬総統と日本の関わりは希薄である。また就任まもなく尖閣諸島(台湾名「釣魚台」)問題で、日本に厳しい態度をとったことなどから、日台関係を懸念する声が上がった。ところが実際、馬政権は「台日特別パートナーシップ」を唱えるなど、日台関係強化に前向きであった。台湾と日本は、この時期にも様々な実務的な関係を進展させた(表参照)。

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