1月14日に総統選を迎える台湾。総統選は接戦で、先行きは不透明な情勢である。
日本にとって、台湾は重要な貿易相手の一つで親日感情の強い地域であるだけでなく、
地政学的に見ても、中国を囲む第一列島線の一部を形成するアジア・太平洋地域の要だ。
総統選の結果次第で揺れ動く中台関係の板挟みにあって受動的に対応するのではなく、
日本の国益に立脚した戦略性をもって、台湾新政権にメッセージを発信せよ。
台湾が岐路に立っている。2012年1月14日、台湾で総統選挙と立法委員選挙(大統領と一院制議会の全面改選の選挙。任期はともに4年)が行われる。この選挙で、08年以来中国大陸との関係改善を進めてきた中国国民党(以下、国民党)の馬英九政権が続投するのか、あるいは台湾の主体性と中国の脅威を強調する民主進歩党(以下、民進党)が政権を奪回するのか、注目を集めている。
観光旅行で台湾を訪れるだけでは気がつかない人がいるかもしれないが、日本と台湾には外交関係がない(台湾が外交関係を有する国は23カ国・11年11月現在)。日中国交正常化がなされた1972年以来、日本と台湾には首脳会談や閣僚級会談もなければ、制度化された事務レベル協議もない。お互い交流協会(日本)と亜東関係協会(台湾)という建前上政府の外の組織を作って、必要な実務レベルのやりとりをしている。
地政学的にも重要な台湾
台湾が日本にとってほとんど無用・無害な遠隔地域であればそれでもよいかもしれないが、台湾は案外重要な地域である。日本にとって台湾は近隣にある世界第4位の貿易相手であり、日本は台湾から毎年巨額の貿易黒字を得ている(10年、339.1億ドル)。次に、台湾の対日感情は良好である。台湾が東日本大震災に際して約170億円を超える巨額の義援金を集め、感動を呼んだことは記憶に新しい。そして地政学的にも、台湾は中国を囲む第一列島線の一部を形成している。台湾が中国の影響下に入れば、アジア・太平洋地域諸国はパワー・バランスの変化に直接さらされることになる。日本の生命線ともいえるシーレーンが台湾のすぐ東側を通っていることも忘れてはならない。
しかしながら、外交関係がないという「悲哀」は常に台湾につきまとう。たとえば今般の震災に寄せられた各国の支援に対して、当時の菅直人首相は各国の主要紙に謝意を表明する広告を掲載したが、恐らく中国の反発を考慮し、台湾ではそうされなかった。首相の親書を総統府に届けるなど、日本としては最大限の配慮をしたつもりであったが、台湾では侮辱だと受け取られた。日本では台湾への関心も薄く、こうした事例は大小後を絶たない。日本として、隣人がどんな岐路に立っているのか、そして日本にはどのような影響が及び、日本がどのような対応を取るべきなのか、関心を持ち、考えておく必要がある。
台湾の選挙に話を戻すと、当初選挙戦は現職の馬総統優位に進んできた。しかし11年10月に馬陣営が再選後に中国大陸と「平和協定」を結ぶ公約を発表して以来、追い上げる民進党候補の蔡英文氏(女性)と世論調査で「誤差の範囲」にまでその差が縮まった。欧州の通貨危機に起因する景気悪化も馬政権には不利に働いている。さらに国民党系野党である親民党の元台湾省長宋楚瑜氏が総統選挙に出馬した。もしも宋氏が最後まで選挙戦を戦うことになれば、蔡氏が漁夫の利を得る可能性さえある。接戦となったからには、日本はどちらのケースにも対応を考えておく必要がある。
接戦の様相を呈する台湾総統選
両者の最大の違いは中国大陸との関係にある。