2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年7月3日

 6月3日付Wall Street Journalで、John Lee豪シドニー大学準教授は、6月初めにシンガポールで開催されたアジア安全保障会議(「シャングリラ対話」)への中国国防大臣の欠席は、薄熙来事件以降、共産党の内情について質問を受けることに、中国の指導者達が神経質になっているためであるが、これに比し、米国は、この会議において外交上の大きな行動の自由を得た、と述べています。

 すなわち、「シャングリラ対話」の最大の話題は、パネッタ国防長官が、米海軍力の配備を太平洋60%、大西洋40%に変えることを表明したことと、同時に、中国の国防大臣が欠席したことである。昨年の同会議には、中国から梁光烈国防部長が、大臣級で初めて出席し、中国がこの地域における信頼構築に積極的姿勢を見せたものとして評価されたが、今年は違った。

 中国国防大臣の欠席の理由としては、中国としては、南シナ海における中国の強硬姿勢に関し、種々の質問を受けることを回避したいからだとの見方があるが、去年、梁国防部長が、この件についての質問を上手く避けたことから見て、説得力に欠ける。去年、中国は、南シナ海の問題は、係争国間同士が話し合って解決すればよく、外部勢力(米国)が関与すべきではないと主張し、会議を米国牽制のために利用した。今回、不参加の公式理由は、「国内の優先事項のため」というものであり、これは真実に近そうだ。

 最もあり得そうな理由は、中国の指導部交替が順調に進んでいないからだというものである。薄煕来事件以来、中国共産党は、揺らいでいるようだ。これまで、中国では、民主的選挙はなくとも、党内、特に政治局は、基本的に、一致団結し、効率的で正統性をもつ政治を行っている、と外部に宣伝することが出来た。中国の政府系メディアは、民主主義による多党政治はしばしば分裂し混乱しているが、一党支配は党内の統一・団結を保つ点で優れている、と報道してきた。

 今回、会議では、中国の指導部交替について、厳しい質問が浴びせられる可能性があった。薄事件以降、指導部は、党内不統一について、質問を受けることに極めて臆病になっている。中国の政治文化は、何かあると透明性がなく、非協力的になり、秘密主義に走る傾向をもつ。

 この点、米国は、中国と対照的であった。パネッタ国防長官は、海軍力の重点変更の他、特に海、空、サイバーの分野において、国際ルールに基づいた開かれた秩序作りに貢献したい、と語った。米国経済は不景気であり、次期大統領選を控えているが、アジア太平洋に関与し続け、透明性と責任ある役割を担うことを印象付けた。中国国防大臣の欠席により、明らかに米国は、外交上大きな行動の自由を得たことになる、と述べています。

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 ジョン・リー教授は、豪州の「シャングリラ対話」の非政府代表団のメンバーであり、現地での会議の雰囲気を知った上で、本論評を書いています。リー教授の論評は、昨年の会議と比較した上で、梁光烈国防部長の欠席の理由を、南シナ海の対立が深まっているためではなく、国内の指導部対立をどのように対外的に説明すべきかわからず、そのため、リスクを避けようとしたためではないか、と推測しています。リー教授は、中国共産党が党内統一を維持しつつ、効率的に政治運営しているという考えは、薄煕来事件以来、大きく崩れ去った、と見ています。


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