中国側の説得を
これまで国は尖閣5島のうち4島を地権者に賃貸料を払って借り上げ、上陸を制限するなどの管理を行ってきた。今も借り上げ方式がベストと主張する外交官もいるが、都の購入計画を引き金に野田政権は国有化に舵を切った。しかし、国有化の大前提は良好な日中関係の維持である。
国有化と良好な日中関係の維持が両立しなければ、尖閣問題はさらにこじれてしまう。重要なポイントは、中国が国有化を容認できるかどうかだ。7月、国有化方針の公表直後、中国共産党の機関紙、人民日報や、その系列紙、環球時報は国有化を激しく批判した。
中国は公式的には、都の購入にも国有化にも反対する立場だ。
「島を購入するという問題は中国国民に強い憤りをもたらした。両国関係の障害となっている」「一部の人の思惑通りに進めば、釣魚島問題は制御不能になり、平和と安定を取り戻すことができなくなる」
中国の対日外交を統括する大物元外交官、唐家璇氏=中日友好協会会長=は8月29日に北京で開かれた日中関係のシンポジウムであらためて警告した。
微妙な中国の本音
国有化に一定の理解も
しかし、中国側の本音は微妙だ。8月初めに北京を訪ねた際、中国の外交官と懇談した。彼は「オフレコ」としながらも「国有化の方が『平穏、安定的』との野田首相の考えについて、一定の理解はできる。だが、都の購入より国有化の方が実効支配の強化につながるとの見方もある」と述べた。
東京大学大学院の高原明生教授は共同通信配信の談話(8月17日)で「国有化について『より悪質』『反中国的な石原都知事の主導より、平穏に現状を維持できる』という2つの見方がある。責任がある人々は後者の見方だが、なかなか公の場では言えない雰囲気がある」と分析した。
冷静な対応を呼びかける野田首相の親書
その上で、高原氏は「国有化後、中国が公船をまた尖閣近海へ出せば、また負の連鎖が始まる」と指摘し、「国有化は中国にとってプラスだという説得を日本側は繰り返し行うべきだ」と語った。
野田首相は28日、中国の胡錦濤国家主席あてに両国の対立をエスカレートさせないよう冷静に対応する姿勢を強調した親書を送ることを決めた。親書を託された山口壮外務副大臣は同日から訪中し、中国側要人と会談する。