2024年12月19日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年8月30日

先人の知恵

 約30年前、作家の故有吉佐和子さんは『日本の島々、昔と今。』という著書で尖閣問題の解決策をユーモアたっぷりに提起した。

 第1案は「(大地震で)一夜にして尖閣諸島が海の下に消えてなくなったら、どんなにいいだろう。無人島だから、人身事故は起らないし、領土問題でどの国と争うこともない」。

 第2案は「掘っても、掘っても、一滴の石油も出て来なければいい」。中国が尖閣の領有権を主張し始めたのは1970年、周辺で石油が出そうだと分かってから。有吉さんは石油さえ出なければ、争う必要はないと考えた。

 中国は78年4月、100隻以上の漁船を尖閣近海で操業させて領有をアピールした。だが、同年秋に来日した中国の故鄧小平副首相は、尖閣について「われわれの世代には知恵がない。次の世代がこれを解決するだろう」と述べ、漁船の操業は「偶発事故」と言ってのけた。

 有吉さんは鄧氏の「棚上げ論」について「テレビでこの記者会見を見ていたのだが、まったくこの名台詞には唸った」と書いた。

 今、有吉さんも鄧氏もあの世で今回の騒動を嘆いているに違いない。「小さな島を奪い合うより、日中友好の大局が重要なのだ」と。

両国に広がる危険なナショナリズム

 尖閣問題をめぐり、日中双方に狭隘なナショナリズムが急速に広がる。両国のメディアには「けしからん」「もっと毅然と」「弱腰になるな」と勇ましい言葉が飛び交う。

 このようにぴりぴりと緊張した状況は日中双方に不利益をもたらす。最もたいへんなのは、日中間の最前線にいる人たちだ。大使の車が襲われたのは、典型的な例だが、ビジネスマンやその家族、留学生ら在留日本人も反日デモなどの被害を受けかねない。

 日本に住む中国の友人たちも同じような不安を強めている。

 中国研究の場で出会う自衛隊や海上保安庁の関係者も感情的なナショナリズムの高まりをとても心配している。日中間の最前線で、自分たちや仲間が偶発的なトラブルに巻き込まれる危険性が強まるからだ。(尖閣防衛について、政府の長期戦略や具体的な指示もないままに)。


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