現在世代内の公平性についても
正確に検討するために
つまり、伝統的な世代会計における世代間公平原則は、同一のマクロ経済環境、同一の政策つまり受益負担構造が継続した場合において、残りの生涯の残存期間が同一である新生児世代と将来世代の間の世代間格差がゼロであることをのみ要求できるに過ぎなかった。トートロジーになるが、伝統的世代会計は、過去に経験してきたマクロ経済環境や受益負担構造、さらには人生の残存期間が異なる現在世代内における公平原則をその性質上導くことはできなかった。その結果、将来世代の生涯純負担の削減が優先され、その結果として生じる現在世代内の生涯純負担の不均衡の拡大に関しては軽視される傾向にあった。
例えば、8月10日に成立した消費税増税法案の審議に際して、野田総理以下政府与党幹部は「将来世代にこれ以上ツケを残さない」ことを理由に掲げた。しかし、消費税率の引き上げが、現在世代と将来世代の間の世代間格差の縮小に資しても、現在世代内の世代間格差を是正するかに関しては、伝統的な世代会計からは必ずしも明らかにはならない。
そこで今回は、現在世代と将来世代の間の世代間の公平性のみならず、現在世代内の公平性についても可能な限り正確に検討するため、過去に遡って現在世代の受益負担額を計測し、すべての世代の文字通りの意味での生涯に渡る純負担額の推計を行う。
これまでの世代会計との2つの違い
前回見た伝統的な世代会計との違いは、以下の点に要約できる。
第1に、推計時点(2010年度)に生存する現在世代(0歳から94歳)について、推計時点以前の過去の受益と負担を世代会計の手法を援用して推計を行うことである。つまり、過去の受益・負担構造を推計し、これを基準年時点の価値に割り戻すことで、現在世代の過去の純負担を求め、前回求めた将来の純負担と合計することで、各現在世代が生まれてから死ぬまでの世代別の純負担(生涯純負担)の推計を行う。
第2に、世代別の生涯所得を推計し、生涯所得に対する生涯純所得額の比率である生涯純負担率(Lifetime Tax Rate)を用いて評価したことである。これによって各世代の実質的な負担の重さを評価することができるようになる。
日本はこれまで税制に関しても社会保障負担に関しても所得に比例する部分が大きかった。つまり、所得が高い世代ほど負担が大きくなることを意味する。しかも、日本経済の成長率の3度に渡る下方屈折を受け、若い世代ほどかつてほどの高い所得を見込めなくなった。つまり、過去分の純負担額を推計する場合、所得の高い世代ほど純負担が大きくなる傾向にあり、純負担額を単純に比較するのでは、世代間不均衡に関してミスリーディングな情報を発信してしまうこととなる。