アメリカのドナルド・トランプ次期米大統領が、米ABCニュースの看板キャスターの発言によって名誉を毀損(きそん)されたとして訴訟を起こし、同局がトランプ氏に1500万ドル(約23億円)を支払うことで和解が成立したことが14日、明らかになった。キャスターは番組で、トランプ氏に「レイプの責任がある」ことが裁判で認定されたと誤った説明をしていた。
問題となったのは、キャスターのジョージ・ステファノプロス氏がナンシー・メイス下院議員(共和党、サウスカロライナ州)にトランプ氏支持について尋ねた、3月10日の放送。
その中でステファノプロス氏は、「判事らと、二つの別々の陪審が、彼(トランプ氏)にレイプの責任があると認定した」などと、間違った内容の発言を10回繰り返した。
和解文書によると、ABCニュースは、「原告によって、または原告のために設立される大統領の財団と博物館」に1500万ドルを寄付として支払う。
米メディアはこの1500万ドルについて、将来のトランプ氏の大統領図書館の費用に充てられると報じている。
同局は弁護士費用として100万ドルをトランプ氏側に支払うことにも同意したという。
同局はまた、今年3月10日付の同局サイトの記事の末尾に、編集側としての注釈を追記する。文面は、「ABCニュースとジョージ・ステファノプロスは、2024年3月10日のABCの『This Week』で、ジョージ・ステファノプロスによるナンシー・メイス下院議員とのインタビュー中にあった、ドナルド・J・トランプ大統領に関する発言を遺憾に思っている」というもの。
ABCニュースの広報担当は声明で、「当事者らが裁判所に提出された文書の条件で訴訟を終わらせることで合意したのは喜ばしい」とした。
陪審はレイプの責任は認めず
ニューヨークの連邦地裁は昨年5月、トランプ前大統領が1996年にデパートの更衣室で、雑誌コラムニストのE・ジーン・キャロル氏に性的暴行をしたと認定した。同氏はレイプの被害も主張したが、陪審はレイプについては前大統領の責任を認めなかった。
ルイス・カプラン判事は当時、「ニューヨーク刑法の特定条文の狭く厳密な意味の範囲内で」、キャロル氏は前大統領にレイプされたと証明できなかったというのが、陪審の結論だとした。
判事はまた、州法のレイプの定義について、現代の一般的な会話や、いくつかの辞書、他州の刑法における定義よりも「はるかに狭い」と指摘した。
今年1月には、ニューヨークの連邦地裁が、前大統領によるキャロル氏への名誉毀損を認め、8330万ドル(約123億4000万円)の損害賠償を支払うよう前大統領に命じた。
前大統領はいずれの評決も不服として控訴している。
トランプ前大統領は、BBCがアメリカ提携する米CBSニュースに対しても、カマラ・ハリス副大統領のインタビューをめぐって「欺瞞(ぎまん)的行為」だとして訴訟を起こしている。
米CNNについては、自らをアドルフ・ヒトラーになぞらえたとして名誉毀損で訴えたが、担当判事が昨年、訴えを棄却した。
米紙ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストに対しても訴訟を提起したが、共に棄却となった。