アゼルバイジャンからロシア南西部チェチェン共和国に向かっていたアゼルバイジャン航空の旅客機が、カザフスタン西部で墜落し、38人が死亡した事故で、米ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報担当調整官は27日、当該機がロシアの防空システムによって撃墜されたかもしれないことを示す「初期の兆候」をアメリカが確認していると記者団に話した。
米紙ワシントン・ポストによると、カービー氏は記者団に、「ロシアの防空システムがこの飛行機を墜落させた可能性を、確かに示す初期の兆候を我々は見ている」と述べた。さらに、アメリカ政府が目にした証拠は、すでに広く出回っている、損傷した機体をとらえた画像以上のものだと述べた。
カービー氏はこれ以上の内容に踏み込むのを避けたものの、アメリカ政府は事故原因調査に協力を申し出ていると述べた。
旅客機はカスピ海を渡ってカザフスタンへ迂回(うかい)するより先に、ロシアの防空システムに迎撃されたと考えられている。
アゼルバイジャンの航空専門家らは、旅客機の全地球測位システム(GPS)が電波妨害を受けた後、ロシアの防空ミサイルの破片で機体が損傷したとみている。
アゼルバイジャン政府はロシア政府を追及していないものの、同国のラシャド・ナビエフ運輸相は27日、墜落機はチェチェン共和国に着陸しようとした際に「外部からの干渉」を受け、機体の内外を損傷したとの見方を示した。
ナビエフ運輸相は、「(生存者は)例外なく全員、旅客機が(チェチェン共和国の首都)グロズヌイ上空を飛行中に3度の爆発音を聞いたと証言している」と発言。捜査当局は今後、「どのような武器、あるいはどのようなロケット弾が使用されたのか」を調べることになると述べた。
クレムリン(ロシア大統領府)は墜落についてコメントを避けている。しかし、ロシア連邦航空運輸局(ロサヴィアチア)のドミトリー・ヤドロフ長官は、事故当時のグロズヌイは「非常に複雑な」状況下にあり、領空閉鎖プロトコルが敷かれていたと述べた。
「ウクライナの戦闘用ドローン(無人機)が、グロズヌイとウラジカフカスの両市にある民間インフラにテロ攻撃を仕掛けていた」と、ヤドロフ氏はロシアのタス通信が公開したビデオ声明で述べた。
「そのため、グロズヌイ空港周辺では『カーペット』と呼ばれる計画が敷かれ、指定地域から全ての航空機を直ちに立ち退かせることになった」と、ヤドロフ氏は述べた。「さらに、グロズヌイ空港周辺には濃霧が発生していた」。
ウクライナのアンドリー・イェルマーク大統領首席補佐官は、ロシアは責任を負わなければならないと述べた。
「ロシアの上空で撃墜された」と
アゼルバイジャン航空J2-8243便は、カザフスタン西部アクタウ近郊に緊急着陸しようとしたが、墜落して炎上した。
チェチェン共和国の首都グロズヌイに向かっていたものの、霧が発生したため進路を変更して飛行していたと、アゼルバイジャン航空はBBCに説明した。
アゼルバイジャン航空は27日、「外部からの物理的・技術的干渉」が航空機の墜落原因だと、予備調査で示されたと発表したが、詳細は明らかにしなかった。
アゼルバイジャン政府はこれまで、墜落事故をめぐり、ロシアを直接非難するのを避けてきた。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と敵対するのを避けるためとみられる。
しかし、アゼルバイジャン政府寄りのラシム・ムサベコフ議員は、次のように明言した。「旅客機はロシアの領土であるグロズヌイの上空で撃墜された。これを否定するのは不可能だ」。
ムサベコフ議員はAFP通信に対し、旅客機は損傷を受け、パイロットがグロズヌイでの緊急着陸を要請していたと語った。しかし実際は、近隣の空港に誘導されるのではなく、GPSが機能しない状態でカスピ海の向こう側の「遠く離れた場所へ送られた」と述べた。
客室乗務員のズルフカル・アサドフ氏は、旅客機がチェチェン共和国の上空で「外から何かが衝突」した時の様子を語った。
「その衝撃で機内はパニックに陥った。私たちは乗客を落ち着かせ、席に座らせようとした。その時、別の衝撃があり、私は腕を負傷した」
アゼルバイジャンのベテラン操縦士、タヒル・アガグリエフ氏は、同国メディアに対し、ミサイルの破片で、機体を制御する油圧装置が損傷したと語った。「ミサイル自体が機体に命中したのではなく、ミサイルの破片が当たった。ミサイルは機体に到達する前に、約10メートル離れた地点で爆発した」のだと、同氏は見ている。
墜落機の操縦士たちは命を落としたが、機体の一部を着陸させることに成功し、29人の命を救ったと称えられてる。
ロシア政府はコメントを避ける
アゼルバイジャン航空機がロシアの防空システムで迎撃されたとの報道が増えていることについて、クレムリンはコメントを避けた。
クレムリンのドミトリー・ぺスコフ報道官は、「この航空事故に関する調査は進行中だ。調査結果としての結論が出されるまでは、我々にはいかなる評価を下す資格もないと考える」と述べた。
アゼルバイジャン政府に近い人物によると、同国は、事故機がグロズヌイでロシアの防衛システムによって迎撃されたことを、ロシアが謝罪あるいは少なくとも認めることを求めているという。
4年前に、アゼルバイジャンと隣国アルメニアとの、係争地ナゴルノ・カラバフをめぐる紛争で、ロシア空軍のヘリコプター「Mi-24」が撃墜された際、アゼルバイジャン政府は謝罪と補償を申し出た。
「今、アゼルバイジャン側も、ロシアがそのような措置を取ることを期待している」と、政治評論家のファルハド・ママドフ氏は述べた。
カザフスタン当局は、負傷者の治療や、アゼルバイジャンと緊密に連携して調査にあたっている。
関係者によると、旅客機を製造したブラジルのエンブラエル社は、カザフスタン・アクタウ空港から3キロメートル離れた墜落現場に専門家2名を派遣している。また、28日には、ブラジルの航空当局から3名が現場に入る予定という。
アゼルバイジャン・メディアの報道によると、ロシアとカザフスタンはいずれも、ロシアが支配的な地域組織「独立国家共同体(CIS)」の委員会に事故調査を行わせることを提案している。一方で、ゼルバイジャンは、国際的な調査を求めている。
アゼルバイジャン航空などいくつかの航空会社は、墜落事故を受け、ロシアの複数都市へのフライトを停止している。
「安全上の理由」でこの措置を取っていると、アゼルバイジャン航空はソーシャルメディアに投稿した。同社は、ロシアのチェチェン共和国・グロズヌイとダゲスタン共和国・マハチカラを結ぶ便をすでに停止していたが、現在は、ソチ、ヴォルゴグラード、ウファ、サマラ、ミネラリヌイ・ヴォディの各都市への便も運休となっている。
イスラエルを代表する航空会社エルアル航空は、ロシアの領空における展開を理由に、モスクワとを結ぶ全便を運休している。アラブ首長国連邦(UAE)を拠点とする格安航空会社フライ・ドバイは、ソチとフライ・ドバイへの便を停止している。
(英語記事 Russia may be responsible for downed Azerbaijani plane, says US / Azerbaijan says plane hit by 'external interference' over Russia before crash)