アメリカのジョー・バイデン大統領が、連邦死刑囚40人のうち37人を今週、終身刑に減刑した。死刑に積極的なドナルド・トランプ前大統領の次期政権が1期目でしたように相次ぎ死刑を執行するのを、阻止するためとの見方もある。アメリカの死刑は来年以降、どうなるのか。
連邦政府による死刑執行は、トランプ氏が大統領に就任するまで、比較的まれだった。
だが第1次トランプ政権は、末期になって立て続けに死刑を執行。政権移行の時期には死刑執行は控えるという、130年続いた慣行を終わらせた。
トランプ氏は、来年1月にホワイトハウスに戻ったら、死刑執行を再開すると公言している。第2次政権の発足早々に、法廷闘争が起こる可能性もある。
死刑について何を言ってきたのか
トランプ氏は大統領選の選挙活動中、連邦政府による死刑執行の再開と、死刑の適用拡大を訴えてきた。子どもに対するレイプや麻薬・人身売買で有罪となった者、米国民や警官を殺害した移民なども死刑の対象にするとした。
2022年に大統領選への立候補を表明した際には、「これらは本当に恐ろしく、おぞましい人たちで、国内各地で死や惨殺、犯罪の原因となっている」と発言。
「違法薬物を売って捕まった人全員に、その凶悪行為について死刑を求めていく」と付け加えた。
死刑になりうる連邦法違反は、理論上40種以上ある。違法薬物が絡んだ発砲による殺人から、集団虐殺まで、さまざまだ。
そのほぼすべてが、被害者の死を伴う。例外はスパイと反逆だ。
トランプ氏は死刑に関する選挙公約をどう達成するのか、詳細をほとんど明らかにしていない。
それでも、同氏の死刑適用拡大の方針には、人権団体が強く警告している。
例えば、米自由人権協会（ACLU）は12月11日付の声明で、トランプ氏の「ぞっとするような」計画は「彼が大統領1期目の最後の6カ月間で始めた連続殺人」の拡大だと主張。
「彼はすでに、約束を実行に移すと示している」とした。
第1次トランプ政権の末期に処刑された連邦死刑囚には、1953年以来の女性だったリサ・モンゴメリー死刑囚や、唯一の先住民だったレズモンド・ミッチェル死刑囚などがいる。
現実に何ができるのか
死刑囚らに対してバイデン氏が実施した減刑を、トランプ氏は覆すことはできないと、米メディアは報じている。
また、トランプ氏が死刑の適用を、殺人を伴わない犯罪にも広げようとすれば、法的な訴えを起こされる可能性が高い。
連邦最高裁は2008年に、子どもに対するレイプ罪で有罪となった者を死刑にすることはできないとの判断を示している。その際、被害者が殺されていない犯罪について、死刑を適用できるかは明確ではないと付け加えた。
冤罪（えんざい）に関する情報をまとめている「National Registry of Exonerations」によると、被害者が子どもの事件はとりわけ冤罪になりやすい。人々を「極めて感情的」にさせ、家族を対立させるという。
死刑の対象となる連邦法上の犯罪の種類を増やすには、連邦議会が動き、法律を改定する必要がある。
今年、子どものポルノの所持や子どもの人身売買、搾取、虐待を死刑の対象に含めることを目指す二つの法案が議会に出された。どちらも、トランプ氏の盟友である共和党のアンナ・ポーリナ・ルナ下院議員（フロリダ州）が提出した。
だが、ともに下院を通過できなかった。
大きく減った連邦死刑囚を素早く補充することも、トランプ氏は簡単にはできないだろう。死刑が適用されうる事件は多くの場合、判決まで何年もかかり、被告はさらに長期間、上訴して争うこともできるだからだ。
州政府による死刑執行に対しては、トランプ氏は直接的な権限を何ら持たない。しかし専門家の中には、トランプ氏の死刑推進の姿勢が、州レベルでの死刑執行を増やす効果を生むかもしれないと警告する人もいる。
米自由人権協会の副法務局長で、「正義と平等のためのトローンセンター」のディレクターを務めるヤスミン・ケイダー氏は、「彼の発言は、刑事司法制度を含むいくつかの問題に関して、各州の指導者による強権的な措置や態度に拍車をかける可能性があるし、実際そうなっている」とCNNに話した。
死刑は、連邦政府と軍に加え、27の州がいまだ維持している。
世論調査機関ギャラップが10月に実施した世論調査では、有罪が確定した殺人犯に対する死刑を支持する米国民は、わずかの差で多数派（53％）で、前年（50％）から増加した。
（英語記事 As Biden commutes death row sentences, how Trump plans to expand executions）
