米ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)が映画とテレビの優秀作品を選ぶ、ゴールデングローブ賞の授賞式が5日夜、米ロサンゼルスで開かれた。テレビ部門(ドラマ)では、ディズニープラスのドラマ「SHOGUN 将軍」で真田広之氏が主演男優賞を受賞した。同部門の助演男優賞には、同作品から浅野忠信氏が選ばれた。日本人俳優による同賞の主演男優賞、助演男優賞受賞は共に初めて。
「SHOGUN」からはさらに、アンナ・サワイ氏が「鞠子」役で主演女優賞を獲得したほか、作品賞も受賞し、全体で4冠を達成した。
同賞テレビドラマ部門の主演女優賞では1980年、同じ原作をドラマ化した「SHOGUN」で島田陽子氏が「まり子」を演じ、アジア人として初めて同賞を受賞している。
「SHOGUN」は日本の戦国時代を舞台にしたドラマで、真田氏は徳川家康をモデルにした武将・吉井虎永を演じた。
真田氏は受賞スピーチで、「ゴールデングローブ、私を認めてくれてありがとうございます」と述べた。
「この素晴らしい旅を共有してくれたクルーやキャスト、そして私の人生に関わってくれた全ての人に感謝します。皆さんが私をここに連れてきてくれた」
「若い俳優やクリエイターの皆さんには、自分らしくいて、自分を信じて、決してあきらめないでほしいと言いたい」
受賞式後のインタビューで、トロフィーを持ってた感想を問われると、「とても重いです、精神的に……でもすばらしいです」と答えた。
プロデューサーも務めたことについては、「チームメンバーがいたので(中略)大変ではなかった。責任はありましたがプレッシャーではなかった」と述べた。
一方でせりふの7割が日本語に英語字幕という同作品は、撮影の時点では「ギャンブル」で、「人々が楽しんでくれるか分からなかった」と振り返った。
日本の文化を「正しく伝統的な形で」伝えたかったという真田氏は、この作品では「日本人の視点を脚本に埋め込み、時代劇の専門家を雇った」ことでそれが達成できたと語った。
「SHOGUNの成功によって、これが業界の『新しい普通』になってくれると信じている」
「日本だけでなく、世界中の次世代の俳優やクリエイターにとって、重要な一歩になると願っている」
助演男優賞を受賞した浅野氏は、「みなさんは恐らく私を知らないでしょう。日本の俳優の浅野忠信です」とスピーチを始め、笑いを誘った。
また、興奮を隠しきれない様子で「私にとって本当に素晴らしいプレゼントです。とても幸せです。ありがとう!」と叫び、喝采を浴びた。
主演女優賞を受賞したサワイ氏は短いスピーチの中で脚本家への感謝を言葉にし、「この脚本がなければ、最高の演技はできなかった」と涙をにじませた。
「SHOGUN」は昨年9月、アメリカで放送・配信された優秀作品に与えられる米エミー賞で史上最多の18冠を達成した。
ゴールデングローブ賞のテレビ部門ではこのほか、コメディー・ミュージカル部門の作品賞を「Hacks」が受賞。同部門の主演男優賞は「The Bear(邦題:一流シェフのファミリーレストラン)」のジェレミー・アレン・ホワイト氏が3年連続で受賞した。主演女優賞には2022年に続き、「Hacks」のジーン・スマート氏が選ばれた。
短編シリーズ部門の作品賞は「Baby Reindeer(邦題:私のトナカイちゃん)」が受賞した。同作品からは、イギリス人俳優のジェシカ・ガニング氏が助演女優賞に選ばれている。
麻薬王の性転換を描くミュージカルが4冠
映画部門(ミュージカル・コメディー)では、メキシコの麻薬王が性転換するスペイン語ミュージカル「Emilia Pérez」が4部門を受賞し、最多受賞作品となった。
フランス制作の同作品は、作品賞と非英語映画賞、歌曲賞を受賞したほか、助演女優賞をゾーイ・サルダナ氏が獲得した。
作品賞のスピーチで、トランスジェンダーの俳優カルラ・ソフィア・ガスコン氏は観客に向かって「私はあなたに言いたい。声を張り上げて、『私は私であって、あなたが望むような人間ではない』と」と語りかけた。
同部門の助演男優賞には、「リアル・ペイン〜心の旅〜」のキーラン・カルキン氏が選ばれた。
主演女優賞には、「The Substance」のデミ・ムーア氏が選ばれた。
ムーア氏は1990年代に3回、ゴールデングローブ賞の候補に挙がっていたが、受賞は今年が初めて。
ムーア氏はスピーチで、「30年前、あるプロデューサーにポップコーン・アクトレスだと言われた。その時は、賞は自分には関係のないもの、成功してたくさんのお金を稼げる映画に出られても、決して認められることはないという意味だと受け止めた」と述べた。
「私はそれを受け入れてしまって、信じこんでしまっていたが、それが私を徐々に蝕んでいった」
「そして、どん底に落ちた頃、私の机に『ザ・サブスタンス』という脚本が届いた。魔法のように大胆で勇敢で型破りで、まったく頭のおかしい脚本だった。そして、宇宙が私に『まだおしまいじゃないよ』と言ってくれた」
主演男優賞には「A Different Man」のセバスチャン・スタン氏が選ばれた。
映画部門(ドラマ)では、「I'm Still Here」でブラジル出身のフェルナンダ・トーレス氏が主演女優賞を受賞。アンジェリーナ・ジョリー氏やニコール・キッドマン氏といったハリウッド俳優を押さえての受賞となった。
トーレス氏は、ブラジル人として初めて同賞を受賞した。トーレス氏の母親のフェルナンダ・モンテネグロ氏も、1999年にこの賞にノミネートされたことがある。
「今年は女性俳優にとって素晴らしい年です」とトーレス氏は語った。
「この賞を母に捧げたいと思います。母は25年前にここにいました。芸術は人生を通じて生き続けることができるという証です」
主演男優賞には「ブルータリスト」のエイドリアン・ブロディ氏が選ばれた。「ブルータリスト」は作品賞と監督賞も獲得し、3冠となった。
昨年、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が受賞したアニメーション映画賞は、洪水の後、生き残るために協力し合わなくてはならない動物たちを描いた「Flow」が獲得した。
司会者がジョーク連発
今年の司会はさまざまなリアリティー番組やスタンドアップコメディーが人気のコメディアン、ニッキー・グレイザー氏が担当した。
ハリウッドの大物がずらりと並ぶ会場を見渡して「今日はオゼンピックにとって晴れの舞台ですね」(糖尿病治療薬オゼンピックはアメリカでは肥満症治療にも使われている)と述べたのをはじめ、特に会場をわかせたジョークをいくつか紹介する。
「私もここまできた、ついにやったぞって思いますね。プロデューサーがいっぱいいるビヴァリー・ヒルトン・ホテルの部屋にいて、今回は服を全部着てるんだから。やってよかったなと」
「有名人をこきおろして楽しむ番組で、私のことを知った人もいるかもしれませんね。でも今夜は、皆さんにそんなことをするつもりはないです。ありえないでしょう。だって皆さんものすごく有名で、すごく才能があって、すごく力があるんだから。本当になんだってできる皆さんで。ただ、誰に投票しなさいって国民に指示することだけはできなかったけど」
「ザ・ベアー、ザ・ペンギン、ベビー・レインディア……。これはRFKの冷凍室にあったものというだけでなくて、これは今晩、候補になっているテレビ番組です」
(訳注:The Bearの邦題は「一流シェフのファミリーレストラン」、Baby Reindeerの邦題は「私のトナカイちゃん」。RFKことロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、かつてクマやクジラの死体を家に持ち帰ろうとしたと言われている)
「会場を見渡すと、ショービジネスで誰よりも一生懸命こつこつと働く俳優たちがいますね。誰のことかというと、皆さんに食べ物や飲み物を運んでいる人たちです。その人たちが運んできたカクテルを皆さんは飲んで、運んできた食べ物を皆さんは眺めるわけです」
「今日は映画の大スターたちも会場に来ています。ケイト・ウィンスレット、ケイト・ブランシェット、コリン・ファレルです。そしてテレビの大スターたちもいます。ケイト・ウィンスレット、ケイト・ブランシェット、コリン・ファレルです」
「エディ・レッドメインでさえ今年はテレビ作品に出たんですよ。(米動画配信サービス)ピーコックの『ジャッカルの日』に出て、ノミネートされました。極秘の精鋭スナイパーの役で、ピーコック配信だから誰にも見つからないんです」
「ティルダ・スウィントンはティモシー・シャラメ役でノミネートされました」
「ティモシー、『名もなき者』のあなたは最高でした。実際、あなたの歌声はものすごく正確で、ボブ・ディラン本人でさえ、まったくひどいものだと認めたって読みましたよ」
「映画の話をこうしてしているだけに、『ウィキッド』の話をしないわけにはいきません。今年になるまで私は『ウィキッド』のこと、あまり知らなかったんです。高校の時には、友達がいたんで」
「でも大好きです。『ウィキッド』大好き。彼氏も『ウィキッド』大好き。彼氏の彼氏は、本当に『ウィキッド』大好き」
「グレン・パウエル、素晴らしい1年でしたね。ありとあらゆるものに出ていたでしょう。ツイスターズ、ヒットマン、彼氏とセックスしている最中の私の頭の中……。アシストしてくれてありがとう。今晩も会いましょうね」
(英語記事 Demi Moore leads Oscar race after Golden Globes win/Host Nikki Glaser's best jokes at the Golden Globes)