ウラジーミル・プーチン露大統領(以下、初出以外敬称および官職名等略)は、武力によりウクライナの領土の一部を奪った。2025年1月20日の米大統領就任式を前に、今、ドナルド・トランプ次期米大統領は、ディール(取引)による領土拡張を狙ったと解釈可能な発言を繰り返している。本稿では、トランプの一連の発言の狙いを探ってみる。
なぜグリーンランドにこだわるのか?
トランプは第1期目の2019年に、デンマークの自治領であるグリーンランドの購入を提案した。米有力紙ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポスト(いずれも電子版)は、トランプの旧友で、米化粧品メーカーのエスティローダー社のロナルド・ローダー氏が、トランプにグリーンランド購入の考えを思いつかせたと報道した。しかし、デンマークのメテ・フレデリクセン首相に拒否され、トランプは同国訪問を中止したという経緯がある。
米大統領就任式を前に、トランプは自身の公式のSNS に「世界中の国家安全保障と自由の目的のために、米国はグリーンランドの所有と管理が絶対必要だと考えている」と投稿し、グリーンランド購入に再び強い意欲を示した。これに対し、ムテ・エゲーデグリーンランド自治政府首相は、「グリーンランドはわれわれのものである。売り物ではないし、これからも売り物になることはない」と声明を出して、トランプに対して断固拒否の意を表した。
では、なぜ、トランプはグリーンランドにこだわるのか。まず、グリーンランド西北部にはピッフィク米宇宙軍基地がある。また、グリーンランドには未だ開発がされていないレアアース(希土類)、石油、天然ガス等が豊富にあるとみられている。
さらに、地球温暖化の影響により船舶の運航が容易になり、貿易および軍事上、グリーンランドの戦略的な地位が近年高まっている。となると、米国のライバル中国の影響力が強まる前に、先手を打つ狙いがあると言えそうだ。
同時に、トランプは自身の不動産ビジネスと絡めて、グリーンランドの観光産業に目をつけたのかもしれない。加えて、トランプは自身のレガシー作りを考えている可能性も排除できない。過去に米国は外国の領土を購入した。トーマス・ジェファソン第3代大統領は1803年、南部ルイジアナをフランスから、アンドリュー・ジョンソン第17代大統領は1867年、ロシアからアラスカを購入した。ルイジアナとアラスカの購入は、米国史に残る出来事である。
従って、トランプのグリーンランド購入の背景には、公益と私益の双方があるとみてよいだろう。
パナマ運河を巡る攻防
グリーンランド購入に加えて、トランプはパナマ政府にパナマ運河の米国の管理権の再取得を訴えている。1903年以来、米国は同運河を永久租借していたが、1977年9月7日の新パナマ運河条約によってパナマとの共同管轄に移った。
その後、1999年12月31日に管轄権はパナマに返還された。ちなみに、上記の新パナマ運河条約に署名したのが、2024年末に亡くなったジミー・カーター元大統領であった。
カーターが死去すると、トランプは自身のSNSに、「私は彼(カーター)に最大の敬意を払っている」と、カーターの業績を称賛する投稿をした。しかし、実際のところトランプは、カーターの業績を覆そうとしている。米国は不当に高額の運河通航料を課せられているので、再びパナマ運河の管理権を取得し、米国の管理下に置くと、トランプは言うのだ。
また、英公共放送BBCによれば、ホンコン系企業がパナマ運河の入り口にある2つの港の管理に携わっている点も懸念材料になっている。
トランプは就任後、パナマ政府に圧力と脅しをかけ、運河通航料の引き下げか、管轄権の返還かの二者択一のディールを突き付けることになる。これに対しても、パナマのホセ・ラウル・ムリノ大統領は「われわれの国の主権と独立に関して交渉の余地はない」と述べ、トランプの要求を退けた。
パナマは、2017年に台湾との国交を断絶し、翌18年に習近平国家主席の訪問を受け入れ、「一帯一路」に署名した。これにより、パナマと中国の関係が著しく近くなった。
中国からすれば、パナマ運河は欧州へつながる国際貿易の最重要地点である。当然ながら、米国は、パナマ運河が中国の管理下に置かれることに強い警戒心を示している。