⑤対南関係の転換は、23年12月末の党中央委員会第8期第9回全員会議で、南北関係を「もはや同族関係、同質関係ではなく敵対的な二つの国家関係」と定義したことから始まった。その後、南北連絡道路の爆破など象徴的な対応をとってきた。
日本では「二つの国家関係」という言葉が独り歩きして、北朝鮮が韓国に関与しないと考える向きが一部にあるが、金正恩氏は24年1月の最高人民会議での施政演説で、「朝鮮半島で戦争が起こる場合、大韓民国を完全占領、平定、修復し、共和国領土に編入する」と明言している。
つまり、平和的な統一は捨て去ったが、韓国の出方次第では武力統一するということだ。南北関係の危険水位は今年も上下するだろうが、この姿勢が根本にあることを忘れてはならない。
そのほか、現在まで最高人民会議の日程は示されておらず、代議員の任期5年を過ぎても選挙が行われていない。今年、選挙が行われるか否かは、国内事情に左右されるだろう。
無政府状態になりかねない韓国
次は韓国だが、昨年12月3日の尹錫悦大統領による非常戒厳宣布以降、国内が大混乱に陥っており、どのように動いていくのか現状では先を見通すことができない。何事もなければ、解放80周年、日韓国交正常化60周年を未来志向の尹政権で迎え、日韓関係は安全保障などさまざまな面で強化されるはずだった。
韓国の政治情勢をシンプルに説明すると、次のようになる。
戒厳宣布した尹大統領に対して、国会は12月14日、弾劾訴追を可決した。これによって尹大統領の職務権限は停止され、憲法裁判所は6月11日までに大統領罷免の可否を判断する。罷免された場合、8月10日までに大統領選挙が実施される。
また、尹大統領は野党から内乱罪で刑事告発されており、警察など合同捜査本部が尹氏の逮捕を試みているが、大統領警護処の阻止に屈したり、捜査本部内での不協和音があったりで、いまだ身柄拘束に至っていない。尹大統領が逮捕されると、刑事事件として一般の裁判所で審理される。蛇足だが、韓国で大統領が逮捕されるのは、内乱罪と外患罪に限られる。
つまり、尹大統領は憲法裁判所と一般の裁判所の両方で裁かれることになるわけだが、事はそう簡単ではない。韓国の動きは二転三転しているため詳細には触れないが、裁判の論点や日程、手続きなどで意見の相違が激しく、すんなりと審理が進むとは思えない。
他方、野党側も大きな問題を抱えている。最大野党「共に民主党」の李在明代表は、公職選挙法違反事件の被告人でもある。一審で懲役1年執行猶予2年の有罪判決が出ており、控訴審で懲役刑の有罪が確定すれば、国会議員の資格を失い、今後10年間被選挙権が剥奪され、大統領選挙に出馬できなくなる。
一審判決が出されたのは11月15日。公選法違反事件では、控訴審は一審から3カ月以内に判決を出すように規定されているが、まだ始まってもいない。野党としては、早期に尹大統領を罷免して、李氏が被選挙権を失う前に大統領選挙に漕ぎ着けたいわけだが、意図的な裁判遅延に批判の声も大きい。
このように複雑怪奇な韓国情勢は、内戦前夜と揶揄されている。野党は大統領権限代行の首相までも弾劾する構えで、政治的空白どころか無政府状態といっても過言ではない。大統領の逮捕をめぐり法執行機関同士が対峙し、保守と進歩(革新)は毎日大規模な集会・デモを繰り返している。公務員同士、市民同士の争いで死者が出れば、暴動に発展する可能性がある。
これまで述べてきたように、今年の朝鮮半島情勢は日本に大きな緊張感をもたらすものになるだろう。対岸の火事でない状況に対処する心構えとともに、隣国の変化を直視する冷静な姿勢が求められる。