②国防5カ年計画は、最終年に入った。そして、計画の完遂が、第9回党大会開催の前提となる。未達成目標は原子力潜水艦の保有と潜水艦発射弾道ミサイルの2つだ。
北朝鮮は23年9月、金正恩氏出席の下、垂直発射管10本を備える「戦術核攻撃型潜水艦 金君玉英雄」を進水させ、24年1月には「潜水艦発射戦略巡航ミサイル」を試射している。
しかし、金君玉英雄は原子力潜水艦ではなく、試射されたミサイルも弾道ミサイルではない。原子力潜水艦と潜水艦発射弾道ミサイルの保有は、ワンセットだ。米露英仏中の5カ国しか保有していない原子力潜水艦を北朝鮮が建造するには、現状ではハードルが高いと言えるだろう。
また、核弾頭の小型化・超大型化、戦術核化については、17年9月以降、核実験を行なっていないため、目標が達成されたか否かうかがい知ることはできないが、北朝鮮はすべて「成功」したとしている。
今後、未達成目標に注力しながら、その他目標の達成度を向上させるため、弾道ミサイル発射など軍事活動を強めていくとみられる。
③ロシアへの派兵継続は、北朝鮮にとって予想外の結果をもたらしているはずだ。北朝鮮は昨秋以降、ロシアへの派兵を進め、既に1万人以上の兵士が戦線に配置されている。ウクライナ側の発表では北朝鮮兵の死傷者は3千人を超すので、これが事実であれば、3割近い損耗率となる。
一般に陸上兵力の場合、損耗率が3割を超えると組織戦闘力を損失する、事実上「全滅」となるので、朝鮮人民軍首脳部は大きな衝撃を受けているに違いない。
北朝鮮が派兵を公式に認めていないため、その意図についてさまざま考察されている。筆者は、第1次トランプ政権での対米交渉失敗をトリガーにして、金正恩氏が「反米連帯」に完全に軸足を移したことが理由だとみている。これが具現化したのが、昨年末に発効した露朝戦略的パートナーシップ条約だ。これによって両国の関係は軍事同盟化した。
昨年12月のNHK報道によれば、派兵は北朝鮮が主導して提案したもので、金正恩氏は最大10万人規模を派兵する意向をもっているという。今後、派兵規模が増えれば、死傷者も増加する。北朝鮮の体制に短期的な影響はないが、死傷者のほとんどは金正恩氏が憂慮する若年層だ。
派兵で得られた実戦経験やドローン対策など教訓と、遺族や若年層に広がる体制への不満はオフセットできるものでなく、長期的には体制維持にマイナスに働くだろう。
米国、韓国との関係は
④第2次トランプ政権の発足は、北朝鮮のみならず全世界の関心事だ。金正恩氏とトランプ氏は3度会談し、27通の書簡を交わしており、個人的関係は悪くない。
しかし、北朝鮮は昨年7月、トランプ氏の大統領候補受託演説を受けて、「国家の対外政策と個人的感情は厳然と区別すべき」「米国との全面対決に十分に準備ができている」とした上で、米朝関係は「米国の行動いかんにかかっている」と、トランプ氏側にボールがあると宣言した。
他方のトランプ氏も山積する国内外の問題に対処しなければならず、北朝鮮問題の優先順位は必ずしも高くない。端的に言って、米朝首脳会談が今年行われる可能性は小さいと言える。
北朝鮮は国防5カ年計画を通じて、対米核抑止力を持つに至った。これまでの米朝協議のテーマは非核化だったが、今後、北朝鮮が核兵器を放棄することはあり得ない。ゆえに、どのような形で協議が始まるにしても、テーマは軍備管理にならざるを得ないとみられる。