いよいよ衆議院選挙の火蓋が切って落とされた。何としても政権を死守したい与党と、好機逃すものかと政権交代を掲げて揺さぶりをかける与党。各党候補者たちはマニフェスト片手に舌戦舌戦、また舌戦と姦しい。票を得んがために聞こえの良いことばかり言う候補者も少なくない。
しかし、そもそも日本人の帝王学とは、「にがみありて、調子静かなるがよし」であった。『葉隠』では、口先ばかりではなく、相手に迎合せず、誠実に自分の信念を語るリーダーこそが、人々の信を得ると説いている。
愛想よく、さわがしく、軽くが流行る現代
最近の傾向というものは、愛想よく、さわがしく、軽くといったものである。選挙にしろ、商売にしろ、こういった類のものが多い。そんなところから買収があったり、汚職があったりする。世の中が進歩すればするほど人の心は荒れてくるのだろうか。
風体の修行は、不断鏡を見て直したるがよし。
十三歳の時、髪を御立てさせなされ候に付て、一年ばかり引き入り居り候。一門共兼々申し候は、「利発なる面にて候間、やがて仕損じ申すべく候。殿様別けて御嫌ひなさるゝが、利発めき候者にて候。」と申し候に付て、この節顔付仕直し申すべしと存じ立ち、不断鏡にて仕直し、一年過ぎて出で候へば、虚労下地と皆人申し候。これが奉公の基かと存じ候。
利発を面に出し候者は、諸人請け取り申さず候。ゆりすわりて、しかとしたる所のなくては、風体宜しからざるなり。うやゝゝしく、にがみありて、調子静かなるがよし。
(現代語訳)
身なりを良くする修行は、いつも鏡を見て直すのがよい。
常朝十三歳の時、前髪を立てることを許されたので、整うまで一年ばかり家に引きこもっていた。前々から一門の人々は、『あの子は利口そうな顔をしているので、やがては失敗してしまうだろう。殿様が特にお嫌いになるのは利口そうな顔をした者である』といったので、顔つきを直そうと思いたった。鏡を見ては直し、一年過ぎて出仕したところ、人々は病人みたいだといった。こうしたことが勤めの基礎だと思う。
利口さを顔に出す者は人々から相手にされない。落ちつきはらい、厳然としたところがなくては姿・格好がよいとはいえない。謙虚で苦味ばしって、調子の静かなのがよいのである。