この連載を始めたのがリーマン・ショックが始まった2009年の2月。もうあれから半年。街を歩くと「値下げ」のオンパレードだ。
値下げばかりが目立つ街角にて
服の秋冬物が出てきたなと思ったら、もういきなりバーゲン。いくらスピード経営でも早過ぎはしないか? 服だけではない。食料品、高速道路に旅行代金、あっちでもこっちでも値下げの広告ばかりが目に付く・・・おそれていたことが起こり始めている。
この連載では、値下げで増益を達成するのがいかに困難であるかを管理会計的に例を挙げつつ説明してきた。値下げ自体は簡単なのである。値札の値段を下げればいいだけの話だ。しかし値下げで売上は増えても、それで増益を達成するのは本当に難しい。それがわかって値下げをしているのだろうか?
・・・きっとわかっていないのだろう。
最終回の今回、いちど原点に戻って「みんな、どうしてこんなに値下げしたがるのか」を考えてみたい。
値下げを好む心理の背景には「規模の論理」が存在する。この「規模を追い求める論理」はいつから始まったのか?それが上手くいく条件とは何か?そしてそれは今後も成立していくのか?これらを考えるヒントとして、すこし歴史をひもとくことにしよう。
100年に1度の経済危機?
2008年9月のリーマンショック以来、世界の経済・景気は悪化の一途を辿っている。そんな不況の中で「100年に1度の経済危機」というフレーズを耳にすることが増えた。いわく、今回の経済危機は1929年ウォール街の暴落から始まった大恐慌に匹敵する。よって昨今の経済状況は「100年に1度」という深刻なレベルであるという。
いま生きている人で1929年の大恐慌を実際に体験した人は少ない。人間誰しも経験したことや、見たことのないことには不安を感じるものである。だからこそ人々は「100年に1度」というフレーズに、幽霊に近い恐怖と衝撃を感じ取る。
しかし裏を返せば、経済はこの100年の間に1度か2度ほどしか深刻な不況になっておらず、それ以外は順調に成長を続けてきたということだ。ここで次頁のグラフを見ていただきたい。