2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年3月14日

 英フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのフィリップ・スティーブンスが、2月11日付同紙にて、安い油価が地政学的混乱をもたらしていることを指摘し、政策立案者は安い油価の地政学的影響をもっと真剣に考慮すべきである、と言っています。要旨は次の通り。

レバノンの難民キャンプ(iStock)

 石油市場については、二つの強固な前提があった。第1:生産者より消費者のほうが予期せぬ利得を使う傾向にあるので、安い油価はグローバルな成長にとって良いことである。第2:中東騒擾は油価を上昇させるので、西側は、アラブの独裁者たちを支持すべきである。

 常識はひっくり返った。石油価格下落は、消費国を歓喜させるはずが、全くそうなっていない。欧州は、経済停滞と難民で苦しんでいる。米国は、今や産油国でもあるが、弱い成長に悩んでいる。中国も問題を抱えている。世界の株式市場は、油価とともに転落している。

覆る「ピークオイル理論」

 イラク、シリア、イエメン、リビアでの戦闘が激化しているにもかかわらず、油価は下落している。サウジは、価格維持よりイランに対する武器として増産をしている。イランとの核合意は、西側をサウジへの忠誠とイランとのデタントの魅力の間で分裂させている。

 1970年代のオイルショックは国際関係を書きかえた。中東は地政学的関心の的になり、ソ連は延命、ベネズエラ、ブラジル、メキシコ、ナイジェリアは価格高騰の恩恵を大いに受けた。しかし今や、オイルマネーの力はなくなった。

 西側の政策立案者は、何も変化していないとの考えに固執している。安い油価は一時的なもので、地政学的バランスはあまり変わらない、生産者は歩調を合わせ、グローバルな成長の回復が油価を再び上昇させる、というわけである。「ピークオイル」理論(注:石油産出量には制限があるとの論)には熱心な支持者がいる。

 しかし、油価についての状況が変わったと見るべき強い理由がある。10年前、米国は世界最大の石油輸入国だったが、シェールからのオイル、ガスは、米国が2020年代、エネルギー自給できることを保証している。シェール井は比較的安価に開閉でき、国際市場に緩衝材を提供する。サウジは今もスウィング生産者だが、スウィングの意味は減少している。OPECは弱体化した。1%の産出削減は油価を短期的には10%押し上げるが、減産で収益を増やせる生産国は一国もない。減産は、市場でのシェアを失うことにつながる。環境法と代替エネルギー、エネルギー効率向上は炭化水素にとって共に逆風である。


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