天野園長: その通りです。親が意識をしてそのような機会を作らないと、家族が揃って一緒に何かできる貴重な機会を逃してしまうことになります。非常にもったいないことです。家族のつながりというか、人のつながりというのは、「一緒に時間を過ごした」というだけでは深まりません。つまり、「旅行に行った」「美味しいものを食べた」というレベルではなく、目標をもって「働いた」「仕事をした」ということが大事なのです。ですから、子どもに手伝いをさせる際に気をつけてほしいのは、ただ単にものを運ぶといったようなことではなく、「あなたがこうしてくれたから、お母さんはこんなに助かった」と思える内容が良いでしょう。子どもが手を出すことで、邪魔になってしまうこともあるかもしれませんが、「大人と一緒に仕事をした」「大人の役に立った」という気持ちを大事にしてあげてほしいと思います。また、仕事の仕方なども丁寧に教えてあげられる良いチャンスでもあります。
―― 子どもの手を借りなくても年を越せてしまう状況の中で、そのような「仕事の仕方」を学ぶためには、どんな掃除を手伝ってもらったら良いでしょう?
天野園長: 小さな子でも無理なくできる、拭き掃除が良いと思います。幼稚園でも子どもたちにやらせていますが、雑巾の絞り方をはじめ、どのような順で取り組めば隅から隅まできれいになるか考える必要がありますので、効率よく働く仕事に取り組む方法を学べます。一軒家ですとガラス拭きは定番ですし、マンションでも廊下なら拭けますよね。
―― 大掃除以外では、おせち料理やお雑煮の準備なども大変ですよね。子どもの手を借りたいところでしょうか?
レシピ本の功罪
天野園長: やはり現代ではそんなこともないでしょう。おせち料理は保存食であり、お正月時期に料理を作らず、のんびり休めるように作り置きしておくというのが本来の目的でしたが、今では外食があります。温かいものが簡単に食べられるので、わざわざおせちを作る家庭も減っていると思います。しかし、季節の変わり目を感じたり、その時期特有の行事を楽しむという点では、やはりおせちもお雑煮も、「家庭の味」として子どもたちに残してやりたいし、料理の手伝いをさせながら「食べることへの関心」を高めてやってほしいです。
―― 天野園長は、前々からレシピ本頼りの世の中を不安に思い、「レシピ本の功罪」として、教育講演という形で親御さんたちに訴えていますよね。
天野園長: 幼稚園ではお母さんたちを対象に料理教室を開いていますが、多くの人が、調味料の分量をきっちり確認しようとします。私は「適当に入れて自分の舌で確かめなさい!」と怒るのですが(笑)。でも、レシピ本に頼っていると、記載してある材料がなければ作れないと思い込んでしまったり、書いてある方法以外は挑戦しなくなってしまったりと、「応用力」が育ちません。私は、子どもが自立する上で、「調理ができるようになること」は非常に大切と考えていますので、子どもたちにはそのようになってほしくありません。だから、普段から親は「家庭の味」を大事にし、自分で考えながら料理をしてほしいと思います。
―― 天野園長がいつも仰るように、何でも手に入る豊かな時代だからこそ、忘れてはいけないものがたくさんある気がします。年末年始はそれを考える良い時期かもしれないですね。あと、年賀状についてはどうでしょう。幼稚園児ぐらいの年齢ですと、あまり関係ないかもしれませんが・・・