その答えは「他人からの指摘をアドバイスとして受け止められる感性」を身につけさせることである。これは大人にも言えることだが、自分の至らぬ点は自分では気がつきにくい。だからこそ、他人からの善意ある指摘は「自分を映し出す鏡」のようなものであり、理想と現実のギャップを知るための大切な手がかりとなる。しかし、その大切さは分かりながらも、自分の至らぬ点を指摘されることは、「自分が否定されていること」と受け止めてしまいやすい。ここで教育の力が必要になってくる。
「他人からの指摘を、批判ではなくアドバイスとして受け止められる人間になってほしいと思います。白紙状態である幼児期にこそ、人から指摘を受ける機会を意図的に創り出し、人の意見を受け入れる訓練を重ねることに意味があります。素直なこの時期だからこそ、この感性を身につけやすく、そして身につけた感性は将来の大きな財産となるのです」(天野園長)
この議論を通じて、自分が至らなかった点を知り、穏やかではない心中に折り合いをつけ、仲間から元気づけられながら明日への行動指針を得る。この議論をせず、「多数決で決まった」という結果だけで終わりにするならば、選ばれなかった子どもには「悔しい思い」だけが残るのだろう。このプロセスを経て、その「悔しい思い」は「明日への糧」に変わり、「受け入れる心」を育てる栄養となる。
そして、この「他人からの指摘をアドバイスとして受け止められる感性」は、子どもたちに「自己変革」を起こす力を育てていくことにもつながっていく。まさに「良薬は口に苦し」だが、「自分がリーダーとして受け入れてもらうためには、何をどのように変えていけばいいのか」を考え、行動に移せるようになる。こうして子どもの心は着実に一回り成長していくのである。
お誕生日に最高のプレゼント
この「リーダー決め」は年長児クラスになってからは学期が変わるごと、さらには活動に応じて何度も行われる。これは繰り返し行うことで「リーダーにふさわしい人物像」がより明確になり、選ぶ側の「人を見る目」が育っていくことを前回紹介した。(密着レポート第20回「5歳児でリーダーが必要な理由」参照)
さらに言えば、この「リーダー決め」が繰り返し行われることは、それだけ多くの子どもが「自分に対するアドバイス」を聞く機会が増えるということでもある。しかし、「リーダーに選ばれる子どもは固定化してくるのでは?」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれないが、風の谷幼稚園の状況は違っている。
「リーダーを多くの子どもに体験させたい」という先生たちの思いも伝わってか、自然と多くの子どもがリーダーとして選ばれていく。これには、大きく分けて2つのパターンがあるようだ。
その1つは、子どもたち自身が「リーダーにふさわしい人物像」を考え、それを言葉に出して議論する中で、最初は消極的だった子どもも「自分にもできるかも」と思い、自らが手を上げるようになってくるというパターン。もうひとつは、仲間に促されてリーダーに立候補するパターンだ。実際にリーダーを経験した子どもが消極的な子どもに対して、「やってみなよ」と声をかける。「でも、できないよ」と答える仲間には、「大丈夫、手伝うから」と言ってリーダーになることを勧める。これによって、多くの子どもが「他人からの指摘をアドバイスとして受け止められる感性」を育てる機会をもつ。