前置きがずいぶんと長くなってしまったが、この「箱作り」においての狙いは、箱の構造を理解し、作業工程を見通し、計る、切る、組み合わせる、釘で打つといった技能の獲得だ。先生たちは心の指導を第一としつつ、これらの技能の獲得を視野に入れて指導に当たることになる。この指導は実際にどのように行われているのか。学級通信を見てみよう。
「みんな、箱ってどんな物? どういう箱を知ってるかな?」
「お菓子が入ってる四角い箱」「前の風組がロッカーに入れてた箱」「クレヨンの箱」・・・「あっ、それじゃあ絵の具の箱もだ」などと様々な意見が出ました。
そして「じゃあ、教室の中にどんな箱があるか、箱を探してみよう。箱だと思う物を持ってきてみて」と箱探しをしてみました。
すると
・連絡帳入れ
・鉛筆入れ
・図書カード入れ
・はさみの入れ物
・折り紙入れ
・紅白帽入れ
等々、他にもたくさんの“箱だと思うもの”を持ってきていた子どもたちでした。
風2組 学級通信 「麦」より
「箱とはこんなもの」と教えるではなく、「箱ってどんなもの?」を自分で考えるように先生が問いかけていく。そして、箱について自分で考えるように促した結果、子どもたちは、箱という言葉で表現できそうなものを自分で考え、続々と持ち寄ってくる。すると、何人かの子どもが折り紙入れや紅白帽入れを指して、
「それは箱じゃないよ、カゴだよ」
何人かの子どもたちがそれに賛同する。そこで、先生が
「じゃあ、箱とカゴの違いは何なのかなあ」
と質問すると
「あのさぁ、穴があいているのがカゴじゃない?」
という発言にみんなが「そう、そう」と納得。「側面や底に穴があいている(網状になっている)入れ物」が“カゴ”で、そうではないものが“箱”ということで、全員のイメージは共有化されていく。
実際に辞書をひいてみると、“カゴ”とは「何らかの素材で編まれた物を入れる器」であり、“箱”とは「物を入れる器」であり、明確な区分は難しい。ただし、これらの意味上の違いは上の学校に行って理解すればよいことで、ここで大切なのは「自分で考え、みんなで話し合ってイメージを共有する」というプロセスだ。
そして、“箱”のイメージが共有されたところで、今度は先生が「今から画用紙で箱を作ってみて」と、子どもたち一人ひとりに画用紙を配る。ここで冒頭のエピソードでご紹介したように子どもたちは一瞬たじろぐ。それはそうだろう。平面から立体を作るということは、子どもたちにとってみれば「???」。人生で初めて出会う難問だ。