2024年12月23日(月)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2010年3月4日

 しかし、ここは“柔軟さ”という長所を存分に発揮し、子どもたちはいろいろと面白いものを作る。三角の筒を作って望遠鏡のように覗いて遊ぶ子ども、四角の筒を作って腕に通して遊ぶ子ども、画用紙を切り分けてセロテープでとめて“箱”を作る子ども、蓋つきの“箱”を作る子どもなどさまざまだ。そして、みんなが“箱”を作り終わった後、「“箱”とはどういうものなのか?」を再び議論する。その結果、「“箱”とは向かい合う辺の長さが同じ」という構造上の特徴が、5歳の子どもたちの議論から導き出された。

いよいよ、のこぎりを使った「箱作り」に取り組んでいく。道具に対する幼稚園の考え方とは?

 余談だが、小学校に進学した卒園生の父兄の話によると、平面の素材から立体(箱)を作るという課題が与えられた授業で、これに答えられたのは風の谷幼稚園の卒園生だけであったという。これは幼稚園での箱作りのカリキュラムを経験していることもあるだろうが、5歳児の段階ですでに“箱”の構造上の特徴を考えだせるほどの子どもたちだ。受験対策学習はしなくとも、日常の遊びの中で鍛えた「地頭の良さ」は、小学校の授業でも活かされているのである。

 さて、この画用紙での「箱作り」が終わった後は、今度は厚紙を使っての箱作りだ。箱の特徴を理解した子どもたちの作業はスムーズに進む。そして、いよいよ本番である木材を切り出しての「箱作り」に移る。

道具は正しく使えば
危険な物ではない

 「失敗してもやり直しがきく」ということを体感させるために、年少・年中・年長と行われる「木工作」。年長になって大きく変わるのは“のこぎり”を使うことだ。これまではあらかじめ木片が準備されていたが、5歳になると自分で板を切り、材料から自分の手で作る。

 年長とはいえ、まだ5~6歳の子どもに“のこぎり”を使わせるということに驚かれる方も少なくないだろう。「もしもケガをしたらどうするのか?」ということを真っ先に考えてしまうのが現代人かもしれない。しかし、これについて風の谷幼稚園の考え方は明快だ。

 「道具とは本来、用途に合わせて使えば危険なものではありません。用途に合わせた使い方をしなかったり、手入れが行き届いていなかったりすることが事故の原因となるのです。使える道具が増えるということは、作れるものが増えるということ。年齢に応じて使える道具を増やしてやるという発想が大切です」(天野園長)

 正しい指導を行えば、5歳児の段階で“のこぎり”や“包丁”を使うことができる。これが事実であることは、風の谷幼稚園の実践が証明している。(もちろん3歳児からの着実な積み上げがあるからこそ、可能なことではあるが)

 ちなみに、風の谷幼稚園の“のこぎり”は常にピカピカに手入れされ、そして買い替えのサイクルも速い。これはもちろん、「切れ味の悪さが原因で子どもたちにケガをさせることがあってはならない」という考え方に基づくものだ。風の谷幼稚園では「ものを大切に使う」「無駄遣いはしない」という考え方は徹底されているが、安全性を犠牲にしてまで、ものを長く使ったり、節約をするような本末転倒は起こらない。


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