2024年12月23日(月)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2010年3月4日

 これも余談ながら、風の谷幼稚園で「少し切れ味が落ちてきた」と判断した“のこぎり”があった。ところが、ある小学校の先生からすると「これはよく切れる“のこぎり”だ」ということになって、風の谷幼稚園のお下がりの“のこぎり”が小学校に引き取られたこともある。それほど風の谷幼稚園の道具の管理は行き届いている。

 また、子どもたちには、 木の切り方はもちろん、“のこぎり”を持って歩くときは、刃をぴったりとお腹に当てて、細心の注意をしながら移動するように指導される。こうすれば、刃が人に当たってけがをすることはないのだ。

子どもたちに可能性が広がる実感を

 「万が一」の確率で発生する事故に神経をとがらせ、そのリスク、あるいは責任を回避するために、「全面禁止」の処置をとることがある。もちろん、やむを得ないケースもあるのだろう。しかし、「万が一」を避けようとするがあまり、普通に事が進めば学べるはずのことが学べなくなる。この社会的損失も考えなくてはならない。

 確かに、身内が事故に巻き込まれた時のことを考えれば、意見はネガティブな方向に流れやすい。しかし、これも行き過ぎると個人の生活力は低下する一方だ。特に刃物のように「便利だが危険性を伴う道具」の教育については、教えるべき時期や常識や技能、あるいは学校教育と家庭教育の役割分担など、多様な観点からの検討が必要だ。

 風の谷幼稚園では多様な観点から考え抜いた結果、現在のような指導を行っているのであり、適切な指導を行えば “のこぎり”は5歳児に十分扱える道具と判断している。そして、自分の手で道具を使いこなし、新しいものを自分の手で生み出し、「自分の可能性が広がっていく実感」を持たせることこそが、この時期には欠かせない教育だと考えているのである。

 このような教育が実践されるには、教育者の覚悟・見識・実行力と、それをとりまく父兄やマスコミなどの教育への理解と知性の両輪が必要になってくる。さて、現在の社会に欠けているのは、どちらの車輪だろうか?

 ※次回の更新は、3月11日(木)を予定しております。

風の谷幼稚園
園長・天野優子氏が、理想の幼児教育を実現するためにゼロから建設に乗り出す。様々な困難を乗り越え、1998年に神奈川県川崎市麻生区に開園。「人間が人間らしく、誇りを持って生きていく」ための教育を実践している。

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