なわとびがこの教育意図に適しているのは、目標が細かく設定しやすく、目標達成の喜びを体で感じることができるからだという。
冒頭のエピソードにあるように、風の谷幼稚園では「はやとび(一拍跳び)」や「あやとび」が跳べる子どもは珍しくない。そして、その目標を達成した子どもは先生に向かって質問する。
「次は、どんなのがあるの?」
先生は答える。
「二重跳びっていうのがあるよ!」
すると、次の目標を定めた子どもは、その達成に向けて努力を始める。
「二重跳びが跳べるようになったのは、確か小学校・・・」と自分自身のことを思い出しながら、幼稚園で二重跳びに挑戦することには驚かされるが、「あやとび」が跳べる子どもにとっては「二重跳び」は手が届く目標なのだろう。
もちろん、二重跳びが跳べる子は一握りだが、子どもたちは各々が自分の手の届く目標を設定する。「はやあやとびを20回続けて跳ぶ」という子どももいれば「後ろはやあやとびを50回跳ぶ」という子どももいる。もちろんこの目標は各自各様であっていい。大切なのは目標の高さや結果ではなく、「自分で目標を決めて、それに立ち向かい、それをクリアする」という成功体験を積むことなのだ。
「なわとび」は段階的に目標設定をしやすい他に、体で達成の喜びを感じられることも大切なポイントだ。テレビゲームなどではこうはいかない。実は子どもたちはこのプロセスを通じて「学ぶということは、どういうことなのか」を体ごと学んでいるのである。人から与えられたテーマや目標に取り組むだけでなく、自分で目標を見つけ出すこと。そして、その目標を現実的なレベルに設定すること。「絶対にあきらめない」という強い心を軸に、知性を働かせ、アドバイスを受け入れながらその目標をクリアしていくこと。その達成の喜びを体ごと感じ取り、さらに高い目標を設定し、繰り返し繰り返し挑戦していくこと。まさに風の谷幼稚園の考える「学ぶ」ということはこういうことであり、そのプロセスを経て育つ強い心こそが、教育の成果として追求しているものなのである。
挑戦することは楽しいことだ!
そして、年長児の「なわとび」のもう1つの大切な教育意図は、「自分の限界に挑戦する」という経験を持たせることだ。
「例えば、年長児ではトラックをつかって『走りなわとび競争』をやります。このときに子どもたちは、どうやって走れば速く走れるのか、どうやってトラックを回れば速く走れるのか、などを考えさせるようにします。これで子どもたちは自分の限界に挑むのです。目標が手の届く範囲にあることは大切ですが、一方でその目標は現在の限界を超え、自分を一回り大きくしてくれるものであることも大切なのです」(天野園長)